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徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
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手駒を増やそう。

 久方ぶりに伊達の城を訪れれば、顔なじみになった政宗の側近、小十郎が出迎えてくれた。教えてもらって一生懸命覚えた文字を書いた紙を渡せば、確かに、と言って受け取る。
「今のところ、大きな問題もないようだな」
「んだ。雨も必要なだけだし、お天道様もいい具合だったからな」
 村の田の様子を見て、大体の収穫の予想量を記して伝える。これはいつきが政宗から正式に受けている仕事だ。とはいえ文字だってまだまだ覚えたてで、しっかりとした報告になっているのかも自信がない。けれどそれを言ったら、小十郎は笑って言った。
 それでいいんだ。お前さんが元気な顔見せてくれりゃあ、それで作物の出来が判るってもんだ。
 顔を見せて、報告書を渡して、それだけでもいいのだが、いつも小十郎も政宗も、いつきにゆっくり休んでいけと言ってくれる。それだけでなく、珍しいお菓子やきれいな小物を見せてくれたりもするから、最近はいつきもこの城に来るのが楽しみだった。
 ただ、それを政宗様の前で言ってくれるな。と、釘を刺されたりはしているのだが・・・

「おう、御苦労だったな小十郎。それにいつき、よく来た」
「久しぶりだね〜」
「お邪魔してるだ。政宗。それと成実さ」
 小十郎に案内された部屋では、政宗と成実が向かい合って何かをしている。
「あ、じゃあ俺はそろそろ席を外した方がいいかな」
 お客様だもんね〜。と、成実はどこかほっとしたようにそう言って席を立つ。
「何だよ、逃げる気か?」
 からかうように政宗が言えば、続きはまた今度ね。と、成実は手を振る。そうしていつきの頭を軽く撫でてから、部屋を出て行った。
「良かっただか?」
「Ah?ああ、アイツ、負けがこんでたんで逃げやがった」
 じゃらじゃらと、政宗は升のような器の中に、盤の上に乗っていたものを入れていく。
「そりゃ何だべ」
 木と木がぶつかり合う音がなんだか心地いい。政宗が手にしたものを見て、いつきは不思議そうに首を傾げた。
「何だ、いつきは将棋を知らねぇのか?」
「しょうぎ?ああ、そういえば・・・でもそんな立派なの見たことねぇだ」
 政宗の手にしている駒も盤も、派手な細工などはされていないが、きれいな色をしている。
「おら、やったことねぇ」
「興味あるのか?」
 来い来い。と手招きされて、先ほどまで成実が座っていた場所・・・政宗の向い側に座り込む。
「この駒はKing. 戦で言うところの大将首だな」
 ぱちり。と、小気味いい音が響く。政宗の長い指が、他の駒より立派な駒をひとつ、手前の中央に置いた。
 これはそっち。と、同じような駒を今度はいつきの手前の中央に置く。どちらもそれぞれ、盤の中央に向かって、尖った先端を向けている。
「あれ?」
 政宗の手前にあるものと、己の手前にあるものとを何度も見比べ、指さした。
「こっちとそっち、何か違うべ」
 よく気付いたな。と、政宗は二つを手に取り、いつきの前に掲げてみせた。
「こっちは<おう>んで、こっちは<ぎょく>だ」
「どうして違うんだ?」
 ん〜。と、少し考えるようにしながら、政宗は駒を元の位置に戻す。そうして指先で玉をつついた。
「詳しいことはunknown だが、まぁよく言うのはあれだ」

 ひとつの盤に、王は二人も要らない。

 単純なことだろう?と、笑う。しかし確かにその刹那、政宗の目は侍の・・・上に立つ者の目をしていた。いつきはそれでも、何も言わない。
 そういう時の政宗は、どこか近寄りがたくて恐れすら感じる。けれど鋭いあの目が、いつきは嫌いではない。それが己に向けられる敵意ならば恐れもしようが、今自分は政宗の敵ではないし、政宗も、意味もなくいつき達を傷つけるようなことはしない。それを知っているから。
「まぁ、ability は変わんねぇよ」
 そう言って、次々に駒を並べていく。やがて政宗といつき、二人の前にそれぞれ鏡合わせのように、駒が揃えて並べられた。
「結構難しいんだぜ。駒ひとつの動きにしたってrule があるからな」
 興味津々といったように盤を見つめるいつきを見て、政宗は微かに微笑む。いつの間にかこの城と、伊達軍の中に馴染んでしまった少女が笑う。それだけでほっとする自分がそこにいた。
 後ろは振り向かない。自分で決めた道を行く。そう決めた。けれど時にそれが正しいのかどうなのか、自分で判らなくなりそうなことがあって、そんな時、この少女が笑っているのを見ると、足元がしっかりとしてくる。
 救われたいとか、報われたいとか思っている訳じゃないけれど、己の地に暮らす者が笑っていられる。それが己の目指している道が間違ってはいないと、力強く導いてくれる気がするのだ。

「〜〜〜っ!だめだぁ」
 じいっと盤を見つめたまま、政宗がひとつひとつの駒の動きを教えてくれるのを見ていたが、ついにいつきはネを上げた。
「覚えることいっぱいありすぎて、ぐちゃぐちゃになっただよ」
 まぁそうだろうな。と、思いつつ、政宗は駒を器に仕舞っていく。ふと、その時気付いたように手を止めた。
「いつき、いつきでも出来るgame があるぞ」
「ホントだか?頭いっぱい使わないのでねぇと、おら無理だぞ」
 All right. と、軽く口笛を吹き、政宗は駒を入れた器を、がっと勢いよく盤の上に抑え込むようにひっくり返した。そして今度はゆっくり慎重に、その器を上げていく。
「将棋崩しだ」
 端の方の駒はころん。と転がったが、いつきが伸ばした手を政宗は止める。
「いいか、音を立てちゃなんねぇ。音を立てず、上手いことこの駒を取っていく」
 すっ。と、政宗の指が外側に転がった駒をひとつ、引き寄せた。
「音を立てたら交代だ。多く駒を取ってる方が勝ち。どうだ?」
 やってみるか?と言われて、いつきはこくこくと頷く。そうして恐る恐る、駒に触れた。
 政宗と同じように、端に転がったひとつはそのまま引き寄せればいい。しかしそれがなくなると、今度は積み上がっている中から取らなければいけないのだ。
「あ」
 カタン。という微かな音。そうすると政宗は声もなく笑い、手を伸ばす。
 お互い、相手が立てる音を聞き逃すまいと、言葉だけでなく息も殺して、駒の山に真剣に向き合う。静まりかえった部屋の中、二人の微かな呼吸の音と、駒が落ちた時の音、その際に上がる小さな歓声だけが部屋を支配する。
「・・・何をしているんですか」
 お茶と茶菓子を持って来た小十郎は、一種異様な緊張感に包まれた部屋の雰囲気に溜息をつく。
「政宗様。将棋崩しは盤が痛みますからと言ってあった筈ですが?」
「いーじゃねーか。固いこと言うなって」
 今、駒の山に挑んでいるいつきには、二人の小声の会話は聞こえていないようだった。そのあまりにも真剣な様子に、小十郎も黙る。その表情が微かに微笑んでいることに気付いたのは、政宗くらいなものだ。
「・・・と」
 音を立てぬよう、しっかりと盤に押さえ付けるようにしながら、いつきは駒を引き寄せる。緊張もあって、指先が震えてしまうが、ここで失敗したら、この分は全部政宗に取られてしまうだろう。
 あと少し。そう思った時、城中に響くような大声が上がった。
「あああ〜っ」
 無惨にも、いつきが必死で引き寄せていた駒二つが崩れて音を立てた。
「Ah〜ツイてなかったな」
 悔しそうないつきを見下ろし、政宗は苦笑する。それから小十郎に仕種で、見て来い。と指示をした。
 しかし小十郎が立ち上がるや否や、ひょい。と見慣れた顔が天井から逆さまになって現れる。
「ひゃあっ」
 こんちは〜。と、緊張感のない声で、猿飛佐助は挨拶をした。
「どっから出て来んだよ」
 いつきがビビッってんだろうが。と、政宗が立ち上がる。佐助は二人の間。丁度盤の真上の辺りに出没したのだ。
「ごめんね〜邪魔しちゃって。旦那、引き止めてたんだけど」
 くるりと器用に空中で回転して、佐助は着地する。勿論盤の上にではなく、畳の上に。
「政宗殿。お邪魔致すでござる!」
 小十郎に案内されて元気一杯にやって来たのはいわずと知れた真田幸村。まぁあの声じゃあ疑いようもないけどな。と呆れたようにつぶやき、政宗は一応、礼儀上幸村を迎え入れた。
「いつき、こいつ殴っていいぞ」
 部屋の中に足を踏み入れた幸村は、そこに幼い少女がいるのを見、それから何度か政宗といつきの間で視線を動かした。
「何故一揆の娘がここに?・・・まさか政宗殿!?」
 破廉恥でござるぅ!と、お決まりの台詞を叫ぶ前に、政宗の手刀が幸村の頭に入った。そりゃもう見事に、美しいまでの軌跡を描いて。そしてそれを、幸村の忍である筈の佐助は黙認していた。むしろ笑っていた。
「アホか!報告がてら時々遊びに来てんだよ。ほらいつき、遠慮はいらねぇ」
 殴っちまえ。と、政宗は再びいつきを焚き付ける。あらなに、面白そう。と、佐助も後ろから幸村を羽交い締めにした。仮にも主人を。
「のわっ!何をする佐助!政宗殿も一体どうゆう・・・」
「別にええだよ。もう・・・」
 そっと、いつきも切なげにうつむくようにして、視線を落とす。それを見て政宗と佐助、そして小十郎は肩を震わせて笑い始めた。
「何?一体何なのでござるか!?」
「いや〜お嬢ちゃん、案外役者だね〜」
「上手い上手い。なかなかのactress っぷりだ」
 ついにはひぃひぃと笑い出した二人と、つられて笑ういつきと小十郎と。一人おいてけぼりな幸村は、またもや声のボリュームを上げる。
 先ほどまでの静けさが嘘のように、騒がしさが部屋の中に広がった。






うぉっ!?本当はひとつで終らせるつもりだったんですが、もうちょびっとだけ続いてしまいそうです・・・
とりあえずは一段落のところで止め。続きは後日に!

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