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徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
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短くなった銀の髪

 
 幼かった頃、優しく頭を撫でてくれた大きな手を憶えている。荒れていてもどこか柔らかかった指が髪を梳いてくれたのを憶えている。
 思い出そうとしても、もうその顔をはっきりと思い出すことは出来なくて。けれど与えられた温かさは今でもはっきり思い出せる。


「・・・」
 時間が出来たので、何気なく顔を出したその部屋で、ころりと転がって体を丸めて眠る少女を見つけた。そういえば、と、微かに苦い記憶を思い出しながら、足音をひそめて傍に寄る。
 幼い頃、自分もこの部屋でこうして、小さく丸まっていたことがあった。誰も見ることが出来なくて、誰かに見られることが恐くて、一人部屋に篭って、小さく小さく丸まって・・・このまま消えてしまえればいいのにと、何度も心の中で願いながら。
 それでいながら夜に一人布団に潜り込むと、言い様のない不安ばかりが襲ってきて、日が高くなる頃にようやく遠くに人の声が聞こえるのにどこか安堵して、部屋の片隅に丸まって眠った。
 こうしている姿を見ると、行く場所もなく、途方に暮れたように小さな場所にようやく己の居場所を見つけてそこに留まる子犬のようで、少しばかり心が痛んだ。
 肩より伸びた銀の髪が畳の上に広がっている。そこまで短くはないが、結ぶには少し足りない。そんな中途半端な長さだった。これは政宗のせいでもある。
 政宗が適当にざっくりと切った髪は、城に上がった際に女中達がきれいに整えてくれたらしい。後に政宗は、女子の髪を何だと思っているのですか。と、やんわりとたしなめられてしまった。そのことを思い出して、一人小さく眉をしかめる。
「・・・あれ、おら」
「Good morning. ・・・つっても昼過ぎだけどな」
 慌てたようにいつきは起き上がり、手櫛で髪を整える。幼いながらも、こういうところはやはり女子だ。
「どうしただ?お仕事は終っただか?」
「Yes. 今日は訓練も終ったからな。時間もあるぞ」
 そうか。と、いつきは嬉しそうに笑う。政宗は最近、時間が出来るといつきの処に来てくれる。珍しい物を見せてくれるのも楽しいが、それよりも今楽しみにしていることが他にあった。
「じゃあ、こないだの続きを聞かせてくれるだか?」
「OK. どこまでだったか・・・」
 部屋の隅の文机の上に置かれた本を手にして座り込む。いつきはその前に座って、大きな瞳を輝かせている。
「たくさんの求婚者ってのが来るところだべ」
 しおり代わりの黄色い銀杏の葉が挟まっている頁を開けば、いつきの言う通りの場面が書かれている。
 政宗は書かれているそのままではなく、文章を噛み砕いて話していく。文字を読めないいつきにと送ったこの本は、彼女のお気に入りになっていた。
 一応、教えてもらって文字も練習しているのだが、自分ではまだ読めないから、時間があれば誰かに読んでもらう。勿論読める人は限られてしまうのだが、その中でも政宗の語り口は、時折独特の異国の言葉を挟みながらも判り易くて楽しかった。
 成実はどこまでが本気でどこまでが冗談なのか、というような読み方をすることがある。小十郎は全てをそのまま読んでから、なぞるようにしてその言葉の意味を話してくれる。どちらもそれなりに楽しいのだが、いつきが一番好きなのは、政宗の読んでくれる物語だった。
 政宗の低い声が物語を紡いでいく。最初はどこか恐いと思っていた声も、今ではそんなことはない。面白可笑しく話してくれる物語がいつきを満たしてくれる。
「なんでお姫さんは、そんな無茶を言うんだべか」
 途中で横やりを入れれば、政宗は読むのを止めて、そうだなぁ。と、一緒になって首をかしげる。だから政宗に読んでもらうと、一冊読むのに何日もかかってしまうけれど、それもまた楽しいことのひとつだ。
 続きが気になって本を開いたこともあるけれど、やっぱり難しくて読めなかった。そう言ったら、それでもいいんだ。と頭を撫でられた。
 政宗の手は大きくて、農民とは違う、刀を持つ人の手をしている。それでもその手は温かかった。

「そうだ」
 ようやく思い出したように、政宗は袖に手を入れる。
「この話の中のもんみたいに、至高の宝じゃないが」
 そう言って差し出されたのは、きれいな髪紐だった。
「まだちょっと早いかもしれねぇが、すぐに伸びるだろう?そしたら使えばいい」
「そんな、貰えねぇだ」
「何でだ?」
「だっておら、こんなによくしてもらってんのに、これ以上何か貰うなんて」
「くれるって時には、素直に貰っておけ」
 You see? と、言いながら、小さな手にそれを握らせる。しばしそれを見つめ、それから顔を上げて、いつきは大きくうなずいた。
「あ、ありがとうだべ」
 大きな手が、くしゃくしゃと頭を撫でてくれる。どこか懐かしいような、それでいて、あの頃には感じなかった気恥ずかしさと。
 なんだかそれがひどく温かくて、少しだけ、政宗から見えないように俯いて、いつきは泣いた。






読んでいるのは「竹取物語」。
政宗は読みながら色々ツッコミ入れてそう・・・とか思いつつ(笑)

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