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徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
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雪が溶ける。時は止まることもなく・・・

 奥州の冬は長い。ようやく雪が積もることもなくなり、地面が顔をのぞかせて、遅い春がやって来る。
 冷たい風の中にも時折春の息吹きを感じるようになってくると、にわかに城内が慌ただしくなってきた。少し離れた部屋にいるいつきにも、その雰囲気は伝わってくる。
 雪が降らなくなってくると、政宗がいつきの元に顔を出す回数が減った。以前はしょっちゅう様子を見に来ては、本を読んだり文字を教えてくれたり、おやつや食事を一緒にしていたのに、何日か顔を出さない日が続くようにもなった。
 その代わりと言っては何だが、伊達成実や原田宗時らが時々顔を見せるようになった。小十郎、成実、宗時は、政宗が幼い頃から一緒にいたということで、時にはいつきの知らない政宗の話をしてくれた。中でも成実は政宗の従兄弟で、彼とどこか似た面ざしがあり、政宗のことを未だに「梵(ぼん)」と呼ぶことがある。どういうことなのかと訊ねてみたら、政宗の幼名が「梵天丸」というのだと教えてくれた。お侍には名前がいっぱいあって大変だな。と言えば、成実も宗時も、可笑しそうに笑っていたものだ。
 おそらくはそれも、政宗の心遣いだったのだろう。忙しいのに、己に近しい者達と接することで、いつきの気分が少しでもまぎれるようにと、配慮してくれていたのだ。
 しかしその成実と宗時、そして小十郎も、そう頻繁に顔を見せることがなくなった。その頃にはもう確実に、春の気配がすぐそこまで来ていた。

 春の気配はどこか胸を踊らせる。けれど今、いつきは口に出せない不安を抱えていた。
 政宗や小十郎とゆっくりと話す時間が減ったことだけではない。城主である政宗や、その側近である小十郎が忙しいのはいつきだって判っている。相手にしてもらえないことが不安なのではなく、ただ、この慌ただしい城内の空気が、日々張り詰めていくのを感じていたのだ。
 上手く言えないが、この緊張感がどういうものなのか、何となく感じてはいた。けれど、そうでなければいいとも思っていた。しかし日々張り詰めていく空気の中、ついにそのことを耳にしてしまった。
「近いうちに戦が始まるんだよ」
 溜息とともに、親しくなった城の者が教えてくれた。城内への人の出入りが増えたのは、物の調達や情報のやりとりがあるからだろう。それ以外にも、時々感じていた気配。それが最近は頻繁に出入りしているような感じもあった。それが何なのか、いつきには判らない。ただ、それも戦のためだったのかということだけは判った。

 雪が溶けてなくなったある日、久しぶりに政宗がいつきの部屋を訪れた。その顔は、冬の間に見せてくれたあの表情ではなく、どこか冷たい、鋭い気配を含んでいる。その表情を、気配を、いつきは知っていた。
「その顔は・・・もう知ってんだな」
 いつきには判らぬ異国の言葉で何事かつぶやき、政宗は居心地悪そうに頭を掻く。それでもいつきはまっすぐにそんな政宗を見つめた。
「戦なんて、どうしてするだ」
 いつきが知っているのは、おそらくは本当に触り程度だろう。本当の戦というものを、いつきはまだ、その目でしっかりと確かめたことはない。
「人が、死ぬんだぞ」
「ああ」
「なして、戦うんだ」
「守るためだ」
 まっすぐに、政宗も視線を逸らすことなく、いつきを見据えた。低い声、鋭い眼差し。春も近くなって、温かくなってきた筈なのに、今、いつきは寒気を感じている。
「なして侍は、戦をする?他に方法はないんだべか」
 冷たい。寒い。恐い・・・目の前の政宗が、知らない人に思える。
「この奥州にも、まだ伊達を認めない者達がいる。ただそう思うだけならそれでもいい。だが」
 そうは、いかねぇんだ。
 はっきりと、低い声が部屋の中に響く。
「家を、国を、民を守る。それが俺の・・・伊達の城主としての仕事だ」
 お前は嫌がるだろうが、そうすることで守られるものもあるんだ。と、最後には、まるで言い聞かせるように柔らかな声で政宗が言う。いつきはじっと黙ってそれを聞いていた。
 この人は、きっとまた人を殺すのだ。あの手で、あの恐ろしいまでに鋭い六本の刀で。
 恐い。と思う。しかしすぐに、そう思ったことを否定した。
 恐いんじゃない。これは・・・悲しいのだ。
 強い視線も、大きな手も、時折いつきには判らぬ異国の言葉を奏でる声も、それが優しさを持っていることを今のいつきは知っているから。
 ずっと優しくあって欲しいだなんて、ただの我が儘かもしれない。強くあることで、厳しくあることで、護っているものもあるのだろう。それでも、政宗の優しさを否定してしまうような、そんな気分になってしまう。そんな自分が嫌だった。
「お前は戦が嫌いだろう?」
 それなら何故、わざわざ伝えに来たというのだろうか。黙っていても、いつきの耳には遠からず入っただろう。けれどこんな風に今、非難の目を向けずに済んだかもしれないのに・・・
 ずるい。と思った。後から知ったのであれば、何故教えなかったのか、何故戦をするのかと、大声で叫んで非難出来た。けれどこんなふうに言われてしまったら、自分はどうしたらいい?
「戦も、戦をするお侍も・・・だいっきらいだべ」
 それだけを絞り出すように言って、いつきは政宗から視線を逸らし、そちらを見ようとはしなくなった。政宗も、ひとつ溜息をついただけで、いつきを残して部屋を出る。
「もし何かあったら・・・」
 言いかけて、ふ、と言葉が途切れる。馬鹿か。というつぶやきが聞こえた気がしたが、すぐに閉められた襖の音にかき消されてしまった。







という訳でしょっぱなから短かめですが第二幕スタートですヨ。
これから更に色々捏造になってきます・・・
そんな「竜の瞳兎の目」ですが、おつき合いいただけたら嬉しいです。

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