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徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
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もし君が止まらぬのならば


 その情報がもたらされたのは、朝も早い時分のことだった。

『最北端ニテ一揆衆ノ動キ有リ。越後ニテ戦ニナル模様』

 偵察としていくつかの斑を編成し放っていた子飼いの黒部隊からの情報はひとつの斑にとどまらず、いくつか同じ報告がなされた。それはつまり、それが事実だという裏付けになる。
「Shit!」
 思わず爪を噛みそうになるのを踏み止まり、代わりに乱暴に己の頭を掻いた。
「あの馬鹿・・・早まるなとあれほど」
 あどけない、小さな少女を思い出す。神から授かった槌を手に、ただ皆のためにと戦っていた少女だ。
「政宗様」
「出るぞ、小十郎。準備は」
「出来ております。しかし・・・」
 戦のための準備は整っていた。もうしばらくしたら、甲斐武田、もしくは越後の上杉と相まみえる心づもりでいた伊達軍の志気も高まっている。だが・・・
「今度こそ、農民を相手にされるおつもりですか」
「上杉と武田、勝負は五分だったらしいな。今、上杉本陣はまだ越後には戻ってねぇ。からっぽの国ひとつ、追い詰められた奴等に落とせねぇことはねぇ」
 そうなれば厄介だ。と、苦虫を噛み潰したような表情で、手元にある書を見つめる。
「越後に入られたら、手が出せなくなる。その前に叩く」
 よろしいのですか。と、問うてくる小十郎の表情も固い。政宗も小十郎も知っている。彼等がどれだけ苦しかったのかを。



 小さな村ひとつ。駆けつけた時にはひどい有り様だった。
 家を壊され、火を放たれ、怪我をしていない者の方が少ない。理由なき蹂躙。それをただの不運という言葉で済ませてしまうには、あまりにもむごい光景。
 そんな中、一人の少女が泣いていた。声もなく、ただ大きな瞳からぽろぽろと涙を零して。
 その傍らには大きな槌。いくつもの小さな傷がついている。必死で戦ったのだろうということは、一目で判った。伊達軍が駆け付けるまでの間、彼等を護る筈の侍達はただ目を閉じ、耳を塞いで、嵐が去るのを待つだけだったのだ。
 そんな中、少女は一人で戦ったのだという。それでも力は到底及ばず、残されたのは無惨にも荒らされた村と、傷ついた人達。
「いつき・・・」
 声をかけると、呆然としたように振り向く。その表情に胸が痛んだ。
 かつて一揆を起こし、自由を勝ち取った村だった。それを交渉し、治めたのは政宗で、だからこそ、この地を護ると約束したのに・・・
「謝って済むもんじゃねぇのは判ってる。俺は、約束を・・・」
 頭の上で結ったおさげが揺れる。涙を流しながらも表情はなく、いつきは黙って首を横に振っていた。
「政宗は、来て、くれただ。おらが、守れなかった・・・」
 なして。と、つぶやく声にいたたまれなくなり、座り込んだままの少女の腕を取る。
「なして、お侍は、おら達にこんな・・・おら達、悪いことしただか?」
「いつき・・・」
 そっと背中に手をまわし、あやすように軽く叩く。すると、小さな声が喉の奥から洩れてきた。
 声が、大きくなる。呆然としていた表情が、泣き顔に変わる。
「うわぁぁぁっ」
 歳相応の、子供の泣き声。ギリギリまで我慢して、溜め込んで、必死で押し殺してきた感情が、堰を切ったように溢れていく。
「こんな世の中、間違ってるべ」
「ああ・・・ああ。だから、終らせる。お前達が苦しいのは判ってる。でも、今は我慢しろ」
 縋り付くような小さな手が、固く固く、上着を握っていた。その感触を覚えている。



 一度は起こしかけた一揆を止めた。二度と彼等が蜂起することがないよう、目を光らせていたつもりだった。それでも恐れていたことが起きてしまったのだ。
 それがいつきの本意からなのかどうかは判らない。けれど広がって行く狂気を止めなければいけない。それだけは、させてはならない。
「皆を集めろ。すぐに出る」

 いざとなれば、せめて俺が、この手で・・・

 再び少女と対峙する時が来ないことを願い、今、その願いは脆くも崩れ去ろうとしている。それでも、力づくでも止めなければいけないのだ。




「二度は言わねぇ。それを収めろ」
 馬上から見下ろす一筋の冷たい光。逆光でその表情は見えず、ただ、その兜にあしらわれた大きな弓のような月。それが光を弾いて見える。
 これが、奥州の王。竜と称される男。それを目の当たりにして、農民達は立ちすくんだ。
「馬鹿なことを考えるな。大人しく帰れ。お前達の手にしてるそれは、武器じゃないだろう」
 農民達が手にしているのは、スキやクワ、そして鎌。全てが彼等の生活を支えるもの。育むべき田や畑の仕事に必要なもの。それは決して、人の血で汚すためのものではない。
「だども!」
「帰れと言っている!いいか、もしこれ以上先へ進むと言うなら・・・」
 腰に差した刀が、鈍い光を放つ。抜き身の剣先を突き付け、ひどく冷たい眼を向けた。
「俺が一人残らず、腕を落としてやる。腕を落とし、腱を斬り、戻ることも叶わないようにしてやるよ」
 その時になって許しを乞うても、もう遅い。
 それは、いつきの知っている彼ではなかった。大きな手で、すまないと言う代わりにいつきの背を柔らかく叩いてくれた。あの彼の姿はどこにもなく、ただ、底冷えのするような鋭い冷たい眼光と、低い、けれどはっきりとした声。その言葉には嘘はなく、本当に、言った通りにするだろう。というのがじわじわと肌から感じられる。
「どうする?今ここで俺に殺されるか、それとも、大人しく戻ってしばらくの我慢をするか」
 皆の気持ちが揺れているのを感じた。我慢ばかり強いられて、それが耐えられなくて立ち上がったのだ、これ以上何を我慢すればいいというのか。しかし目の前の侍の気迫は本物で、農民などには太刀打ち出来ないものなのも判っている。
 どちらにしろ、無駄死にしかないのか。そう嘆く囁きが聞こえる。目の前の侍に斬りかかったところで、出来ることなどたかが知れてる。今、彼は側近の男を一人傍に連れているだけだが、おそらくは囲まれている。
「これ以上、我慢しろと言うだか」
 絞るような声がして振り向けば、一人が震えながら侍を見上げていた。
「ああ。俺はお前達に約束した。お前達が憂いなく田を、畑を作る世にすると。確かにお前達は辛いだろう。だが、今ここで立ち上がったところで、それが変わるというのか?」
「それを変えるために立ち上がっただ!」
 ふと、空気が変わったのを感じた。ひどく静かで、心臓の音が聞こえてきそうだ。
「馬鹿野郎!それはお前達のすることじゃねぇ!」
 一喝。彼の叫ぶ声を聞いたのは始めてじゃない筈なのに、その迫力は今まで聞いたことのないもので、ああ、やはり彼は侍で、人の上に立つ人なのだと思い知った。
「それをするのは俺達で、お前達じゃねぇ。言っただろうが。俺に出来ることと、お前達に出来ることは違うんだと。いいか、大人しく村へ戻れ。悔しいのも怒りも判る。だがそれは」
 俺達が、背負うものだ
 嗚呼。と、声が洩れた。それが自分の声だと気付くのに少しだけ時間を要した。いつきは黙って、手にした槌を地面に降ろす。
 いつきちゃん。と、ざわめきが起きる。けれどもう、いつきは振り向かなかった。
「誰も傷つけないと、約束してくれるだか」
「ああ。おとなしく帰るんなら、お前達に危害は加えねぇ」
「他の村のもんも、同じに扱うんだな」
 逆らうなら容赦はしない。けれどそうでなければ、危害を加えることはない。きっとこの侍は、その通りにするのだろう。
「ああ。お前なら、判るだろう」
「・・・おらは降りる。だども、諦めたんでねぇ。おまえさんに全て預けるだけだ」
 All right. それでいい。と、ようやく侍はいつかのような表情を向けてくれた。



 数日のちに、いつきの元に見慣れた侍が訪れた。顔に傷のある強面の彼は、村の様子を訊ねるとともに、それとなく、あれからの経緯を話してくれた。
「・・・そうか」
 越後に程近い村で立ち上がった者達の反乱が力で押さえつけられたことは風の噂で知っていた。それに胸を傷めなかったわけじゃない。だが、やはり。と思ったのも事実だ。
「お前達にゃあ辛いことかもしれねぇけどな。政宗様を恨むか?」
 少し考えて、いつきは小さく首を横に振る。彼一人を恨んだところで、死んだ者達は戻らない。
「政宗様は、お前が知らぬままでいればいいと思っていたんだろうな」
「・・・何をだ?」
 少し困ったように小十郎は笑って、ただ軽くいつきの頭を撫でてくれた。人を殺す侍の手。それでもそれは政宗がいつかそうしてくれたように暖かい。
「いつかお前にも判る」
 低い声は優しく、そして厳しかった。


「政宗様は、あの娘に甘いですな」
 馬鹿を言うな。と言う主人を見て苦笑し、小十郎は礼をする。そうして見て来たことを政宗に報告した。
「知ることも必要だったと、私は思いますが」
「それでも、そうなったらこっちだって大変だろうが」
 いつきは知らない。集団の狂気を。追い詰められた者達が勝利を手にし、そして拡大していくその恐ろしさを。
 いつきに近しい者達ならまだいい。だが、どんどん膨れ上がる一揆の波は、いずれ中心に立つ人物の思惑など関係なく暴走しただろう。
 彼等は食うものも食えず、追い詰められて武器を取る。そうして勝利を手にしたところで、やはり生きていくには食物が必要で、侍の戦のようにそれを管理する場所も者もない彼等が餓えるのにそう時間はかからない。そうなればどうするのか。
 答えは簡単だ。あるところから奪うことになる。同じ農民が他の地の農民を襲い、その食物を奪う。きちんとした指揮の元にある訳でもない彼等の中には不心得ものもいるかもしれない。傷つけることも殺すことも、人は簡単に慣れてしまう。力で奪い、脅かし、そうして彼等は、彼等の嫌った侍と同じ・・・もしかしたら、それ以上にひどいことをしでかす恐れがあった。
 集団でいる。自分達に正義がある。そんな思いが彼等を暴徒にする。育む筈のものを踏みにじり、そうなってしまった集団をまとめられる者がいない。そんな狂気を、たとえ神の声を聞いたとて、たった一人の少女に止めることなど無理だろう。
 何よりも、そのことを知ればいつきはきっと心を傷める。人の狂気を目の当たりにして、あの少女の心が壊れてしまうかもしれない。
 おそらく政宗には、そういう思いもあったのだろうと小十郎は推察した。彼はあの少女のことを気にかけていて、端から見ていても可愛がっているのが判ったから。
 確かにあの少女が誰よりも護りたいと思った者達のせいで心を傷める姿を見るのは忍びない。

「しかしおかげで、武田、上杉を押さえるのが先延ばしになってしまいましたな」
「Ah?まぁ上杉には貸しひとつ出来たしな。どっちにしろ、あちらさんはしばらく動けねぇだろうよ」
 武田と上杉の戦の様子は聞いている。なかなかに両者とも消耗していて、成る程政宗の言っていた通り、そんな状態で一揆衆に攻め込まれていたら、さしもの上杉も危なかっただろう。
「まだ俺には時間がある。まぁそうそうのんびりもしてられねぇが、じっくりやらせてもらうさ」
 そうつぶやく彼の竜の隻眼は強い光を宿している。それを見て小十郎は小さく礼をした。
「その日を、心待ちにしております」
 あぁ、任せておけ。と、政宗は笑う。それは数日振りに見た笑顔だった。






一応これで完結です。スイマセン。全然伊達いつじゃないです・・・ヨ。
えと、ずっと思ってたことだったんで、書いておきたかったのです。
実際一揆が広がって大きくなったら、それはこういう怖れもあるんじゃないかな〜とか。
それをいつきちゃんが知ったらどうなんだろう。とか、バサラをやっててそういうなんか全然関係ないところばかり気になってたのです。

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