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徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
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そこに起つ理由。
護りたいものと護るべきもの。

「お前は生きたいのか?」
 再び姿を見せた青い戦衣の侍は、それだけ言って真直ぐにいつきを見下ろす。目を逸らすことは出来ない。たったひとつのその瞳は、その隣に立つ男や、周りにいる者達全てを併せても足りないほどに鋭く、強い光を放っている。
「お前は生きたいのか?それとも、死にたいのか?」
 再び問う。いつきは小さく首を横に振った。
「・・・わかんねぇ」
 死にたいのか。と問われれば、決して己からそうしたいとは思わない。けれど、生きたいのかと言われて戸惑ったのも事実だ。
 村のため、生きる為に武器を取った。与えられたものを放棄しなかったのは、そうしなければいけないという義務感だけではなかった筈だ。
「What? 判らねぇってのは、どういうコトだ」
 低い声。この侍は自分に何を言わせたいのか。
 助けてくれと、命だけは奪わないでくれと、許されぬことを判っていて、それでも乞い願う姿を笑いたいのか。否、そんな人物には見えない。言葉の端にも、嘲笑うような気配は微塵もない。それなら何故、そんなことを問うのか。
「わかんねぇだ。おらの命で皆を救ってくれるなら、それでいい。でも、聞きたいのはそんなことじゃねぇんだべ?」
 侍相手にぞんざいな口調だが、もともといつきは侍なんてほとんど見たことも会ったこともなかった。まともに出会ったのは全て戦場で、目の前に立ち塞がる「敵」だった。
「Ha. 賢いな。そうだな、そんなことが聞きたいんじゃねぇ」
 第一、そのことについては、もう約束した。
 念を押すようにそう言われて、少しだけほっとする。この侍は、約束を守ってくれるだろう。
「話し易くていい。単刀直入に言おう。お前は、お前を Scape goat ・・・っと、身代わりにするような奴等の為に、その命をくれてやると、そう言うんだな」
 初めて、いつきの表情が変わった。微かに歪められたその表情を見た侍は小さく息をつく。
「知ってたんだな」
 こくり。と、小さく頷くと、頭の両側でまとめて結んである銀色の髪の束が揺れる。
「神の声を聞いた娘と祭り上げられて、それでお前は良かったのか?」
「声を聞いたのは本当だ。神様がおらに、あの槌をくれた。だからおら、皆を・・・村を護ろうと」
「その結果、哀れなGoat は見せしめになり、自分達は難を免れる。という訳だ」
「皆、一生懸命生きてるだ!毎日毎日、食うもんも食わねぇで、作った米は右から左に侍に持ってかれる。やっと残した来年の種すら持ってかれたら、おら達一体、どうして生きていけばいい?米や野菜がなきゃ生きてけねぇくせに、なして侍は、それを慈しみ、育てることに思い当たらねぇ。おら達だって生きてる。生きるために、食わなきゃなんねぇ。同じ人間なのに・・・!」
 同じ、人間だべ・・・
 もう、相手が誰だとか、そんなことはどうでもよかった。ただ、苦しくて、悲しくて、ずっとずっと、飲み込んで飲み込んで、堪えていたものが、次々と言葉となって口をついで出る。息をつくこともままならぬまましゃくり上げ、溢れる涙が頬を伝う。
 ただ、悲しかった。苦しかった。決して豊かではない暮らし。それでも、いつきはそこにいることが出来ただけでも良かった。村の者に遠巻きに見られて、それでも、一人生きていけるだけの仕事は与えてもらえた。この先どうなるのかなんて判らなかったけれど、一人きりは寂しくないと言えば嘘になるけれど、それでも良かった。それなのに・・・
 貧しさは、心をも蝕む。ただでさえ家族を養うのに必死な彼等に、親のいない幼い娘一人を養ってやれる余裕はない。それでも、小さな仕事を回してもらって、日々の糧を得られるうちはよかった。いよいよ何もなくなれば、まず弱い者から淘汰される。ましてやいつきは、こんな田舎の小さな村には見られない銀の髪をしている。他とは違う外見というだけで大人達は遠巻きにし、同じ年頃の子供達と遊ぶことも叶わなかった。
 鬼子。と、口さがなく囁かれ、中には、明らかに嫌がらせとも取れる言動を取る者もいた。それでもいつきは、寂しいと思いこそすれ、それを責めようとは思わなかった。苦しいのは誰もが一緒だと思っていたから。
 父母を恨むつもりはない。確かに、こんな姿で生まれてしまったことを辛いと思わなかったと言えば嘘になるが、覚えている幼い頃の朧げな記憶の中、確かにいつきは、両親に愛されていたから。
 苦しいのは彼等のせいじゃない。全ては、奪うだけ奪っていく侍のせいだ。
「お前を外見で差別するのも、侍のせいか?」
「!?」
「いざとなれば、親もいない、外見も普通でないお前を身代わりにして生き延びよう。そんな打算が奴等になかったと、そうお前は言うのか?」
「違う!」
「何が違う?そりゃそうだ、誰だって自分が可愛い。自分の家族が可愛い。家族が傷つけられりゃあ、そりゃあ悔しい。よく知る者だってそうだろう。だが、それが人でなければ?」
「・・・っ」
「奴等にとっちゃ、その銀の髪は鬼と変わりないんだろうよ。出来れば関わりあいになりたくない。だが、何か祟りでもあったら。そう思うから、全くむげにも出来ねぇ。そんなところだろう」
 そんな時、いつきが神の声を聞いたと言う。神から授かったという槌を持って、彼等の力になりたいと。
「神の声を聞いたという娘なら、祭り上げるにはこれ以上のものはない。万が一、それが嘘であっても、捕らえられた鬼子がどうなろうと、それは自分達のせいじゃない。そんなところだろう」
「ちがう!そんなんじゃねぇ!」
 おらが自分で決めたことだ。村のために、皆のために、おらがそうしようと決めたんだ。
 必死の形相でそう叫ぶいつきを見下ろす侍の目は相変わらず真直ぐで、何もかもを見透かされてしまうような気がする。
「そうすれば、自分はそこに居られるからか」
 恐い。と、思った。先ほどまでの、命を取られるかどうかという恐怖とは違う。己の心の中にある浅ましさを全て見透かされて、暴き出される。そんな恐ろしさ。
「理由がなきゃ、生きられない・・・か?」
 人と違う外見のために遠巻きに見られた。同じように扱ってもらえなかった。そんな自分が役に立てる。そこに居てもいいと言って貰えた。たとえその言葉の裏に何かが含まれているのだとしても、誰かに必要とされたかった。
 それを願うのは、わがままだと判っていても・・・
「なして・・・なしてそんただこと言うだ。そんなの、おまえさんには関係ないことだべ」
「そうだな。関係ねぇ。But, それじゃあ俺の気が済まねぇんだ」
 殺すのは簡単だ。だが、後味が悪いのはごめんだぜ。と、深く息をついて、ようやく少しだけ、侍のまとう空気が和らいだ気がした。
 生きるのに理由はねぇ。生きていていいとか、そこに居ていいとか、そういうのは誰かが決めることじゃねぇんだ。お天道様に顔向け出来ないことをしてるんでもない限り、お前はお前として、堂々とそこにいりゃあいい。
 それは今まで言われたことのないことで、この侍は、何を言っているのか。と、思った。見てくれの違う自分は、そこにいる以上を求めてしまうのはわがままだと思っていた。必要とされなければ、そこにいてはいけないとすら考えていた。なのに、目の前の隻眼の侍は、それは違うという。
「もう一度訊く。お前は死にたいのか?それとも、生きたいのか?」
 生きる。ということの意味を覆されたような気がした。これまで抱えていた引け目や劣等感等は関係なく、ただ、いつきはいつきとしてそこに居てもいいのなら・・・
「生きてて、いいんだか?姿が違っても、親がいなくても、おらは生きていて、良かったんだか?」
「Of course. 当たり前だろう?」
 生きていてもいいのなら。これからたとえ生き延びたとしても、おそらくは、苦しいことに変わりはないだろう。それでも・・・
「死にたくねぇ」
 それはもはや、叶わぬことだと判っていても。
 今更になって初めて、自分がどうしたかったのかが判る。 自分はただ、生きていたかった。必要とされなければ意味はないと思っていた。生きているための理由が欲しかった。それだけだったのだ。
「OK. それでいい」
 やっと素直になったな。と、優しい声がかけられる。厳しい声も、鋭い眼差しももうそこにはなく、ただ、不思議な和らいだ空気があった。
「そのための辛抱を出来るか?」
「おらを、殺さねぇだか?」
 馬鹿を言うな。神の使いを、ましてやこんな小さなGirl をおいそれと殺せるものか。と、先ほどとは全く違った口調で笑い飛ばされ、いつきは目を丸くした。
 だって、おらの命と引き換えに村を助けるって・・・
「それはそれ、だ。約束通り、これ以上村に手出しはさせねぇ。ここは伊達の領地になる」
 それだけは約束する。と言う侍の目に嘘はない。
「それでも、お前には辛いことになる。二度と故郷の土は踏めない。それでも生きたいと、生きていこうという気持ちはあるか?」
 もう迷うことはない。故郷に未練がないと言えば嘘になる。苦しいことも多かったが、それでも、両親と過ごした大切な場所だ。けれど、それに縋り付いたところで、この先また、同じことの繰り返し。それならば、この侍に賭けてみよう。そう思った。
「おらは、どうしたらいい?」
 物判りのいい子供は好きだぜ。と、侍は口笛でも吹きそうな表情で笑う。
「そうだな・・・その髪を貰うぞ」
 近づいてくる足音が大きく聞こえる。結んだ髪に侍の手が触れると、思わず体がびくりと震えた。ざくり。という音と共に、肩にはらはらと落ちてくる柔らかな感触・・・
 髪を切られたのだと、侍の手に光る銀の髪の束を目にした時に初めて気付いた。懐刀でいつきの結んだ髪の束を切り取り、傍についていた男の用意した紙の上にそれを置く。
 それは確かに己の一部であった筈のもの。軽くなった髪はざんばらとほどけ、肩に落ちてくる。いつきはただ呆然と、目の前で行われるそれを見ていた。
「政宗様!?」
 驚いたような声。そして、銀の髪に落ちる赤い雫。
「小十郎」
 有無を言わせぬような迫力。侍は手にした懐刀で己の腕に傷をつけていた。
「こんなもんか」
 赤い血を銀の束に擦り付け、侍は傷ついた手を手拭いで押さえる。
「む・・・無茶苦茶だべ」
 思わず口をついで出た言葉。けれど侍はけろりとして、そうか?とだけ答えた。
「すぐには自由にしてやれねぇが、辛抱しろよ」

 必ずお前を自由にしてやる。

 そう言った彼の目はやはり真直ぐで、いつきはそれを綺麗だと思った。






これから。の始まり。

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