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徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
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ちいさなおんなのこはおしろでくらすことになりました。

 それが正しかったのか、正直政宗には判らない。ただ、放ってはおけなかった。同情などではない筈だ。それでも、そう言われても仕方ないのも理解している。
 つまらない感傷。そう言われても文句は言えない。それでも、己のしたことを後ろめたいとか悔やむとか、そんな気持ちは一切なかった。
 ただの農民の娘が客人扱い。それを面白く思わない者もあるだろう。考えろと言ったが、そう簡単に道が見えるものでもないだろうし、まず第一、形式上とはいえ、彼女は彼女を知る者達にとっては「死人」なのだ。ただの娘なら、離れた処へでもやってしまえば判らないかもしれない。しかし彼女はあの髪だ。多少なりとも噂として人の口に上れば、かつての彼女を知る者に判ってしまう。
 約束したのだ。自由にしてやると。その約束を違える気は毛頭ない。

 目の届くところに預けることも出来るのだろうが、やはり人目につくことは避けたい。そうなれば一番いいのは、やはりこの城の中にかくまうことだろう。
 奥州の竜は年端もいかぬ娘を召し上げて囲っているらしい。未だ政宗に対して何がしかの感情を抱く家臣の中にはそんな下世話なことを囁く者もいるかもしれない。しかし今の政宗に面と向かってそんなことを言える者はいなかった。
 どうせつまらぬ者達のつまらぬ言葉だ。下手にそれを否定したりすれば、尚更煽ることになるであろうことも判っている。
 それなので、政宗は最初から、いつきを城に置くつもりでいた。それなりに長い時間になるだろうというのは判っていたので、そうそう客人扱いも出来ない。それでも家臣や使用人達にとっては、政宗が気に入って(含む意味は微妙に違うが間違いではない)連れて帰った娘を手伝いや下働き同然に扱ってもいいものか。考えてみれば、いつきの立場は非常に微妙なものだった。

「部屋を用意してやった方がいいな」
 しかし政宗にしてみれば、そんなことは些細なことだ。むしろ些細なことではないのは家臣達だった。
「政宗様。失礼ですが、その前にひとつ、確認しても宜しいですか?」
「何だよ、改まって。気持ち悪ィな」
 笑い飛ばす主人の言葉に多少なりとも引っ掛かりを覚えながらも、小十郎は言葉を選ぶ。
「政宗様はあの娘をいかが致すおつもりで?」
「はぁ?」
「よもや将来はその、召し上げる。などとは・・・」
「どうした、小十郎?何か悪いもんでも食ったのか?」
 眉間に思いきり皺を寄せ、初めていぶかしげに政宗が声をひそめた。
「状況が状況とはいえ、農民の娘を客人扱い、その上、しばらく城に留めるなどと言われれば、使用人達だって不思議に思います。いつき殿の立場を考えたことはおありですか」
「言いたい奴には言わしとけ。俺はいつきと約束したからな」
 別にお前が思ってるようなおかしな下心はねぇよ。と、一応念を押しつつも、あっけらかんと答える。幼い頃から政宗を見てきた小十郎には判る。主人の言葉に偽りはないのだろう。
「あいつはあれで、結構聡い。何より胆が座ってるからな。面白い」
 もともと兄弟との繋がりが薄かった政宗にとって、それに近い感覚なのだな。と、小十郎は直感した。もっとも政宗自身はそれに気付いていないようだが、それでもまぁいい。と思えたのは、彼女のことを話す時、主人の顔が歳相応の表情に戻っていたからだ。
「判りました。つまらないことを訊いて申し訳ございません」
「おう」

 それで、と、政宗は再び話を再開する。
「いつまでも客間じゃ落ち着かねぇだろうから、部屋をやろうと思ってるんだが」
 端から政宗の中には、使用人や下働きをさせる。という考えはないようだった。歳は幼く、農民という身分でも、一人の侍として見ている証拠だ。
「あのお・・・母上、の使っていた部屋でどうだろうな」
 ふと、微かにだが、政宗の表情に影が落ちる。しかし小十郎はそれを見て見ぬふりをした。誰よりも政宗の近くで全てを見てきた彼には、その葛藤が痛いほどに判る。だが、彼の発言は聞き捨てならなかった。
「なりません。あのお部屋はこの城の中でも、政宗様の部屋に次ぐ良い部屋ではありませぬか」
「だからだろう。日当たりもいいし、眺めもいい」
「なりません」
「Why?だから、何でだ」
「あのお部屋はいずれ、政宗様が奥方様を迎えた際、奥方様がお使いになるべき部屋でしょう」
「別に今は使ってないだろうが」
「なりませぬ」
 こういう言い方をしてはいつき殿に失礼なのは重々承知しておりますが、農民の娘が使っていた部屋を払い下げられる。などと、奥方様がどう思われましょう。
 鋭い視線を真直ぐ向けて、小十郎は頑として譲らない。
 別に、そうすぐにあることでもないだろうに。と思ったが、こうなったら小十郎がテコでも譲らないのは判っていたから、大人しく引き下がる。
「仕方ねぇ、それじゃあ、俺が子供ン時使ってた部屋はどうだ?あれなら文句ないだろうが」
 まだ彼が「政宗」の名を賜るよりずっと以前。それこそ元服での改名よりも更に前から使っていた部屋は、彼の母親の部屋には劣るが、嫡男の部屋ということもあって、やはり日当たりも風通しもいい部屋だ。政宗には弟がいたが彼はそこを使ってはおらず、まさに幼い頃の政宗の城。ともいうべき場所だった。
「・・・仕方ありませんね」
 多少なりとも抵抗はあれど、不思議と小十郎はそれがいい。と、直感のようなものも感じていた。
 幼かった主人が過ごした部屋。幸せだった時間と、長く苦しかった時間と、全てを知っているその場所に、あの少女が足を踏み入れる。それが何故かしっくりきた。
「それでは早速準備させましょう。他には何か?」
「そうだな。今日は久しぶりに時間もあることだし、部屋の片づけが済んだら一度あいつの顔を見がてら、Tea timeにしよう」
「台所に伝えましょう」
 お前とあの部屋で茶を飲むのも、そういえば久しぶりだな。と、政宗は笑う。思えば彼は、城主となってからは、あの部屋に足を向けていない。
 少しずつ、約束という形で政宗が迎え、そのために不安定な位置にいる筈の少女が、何かを変えてくれる。そんな予感めいたものを、気付かない内に政宗も小十郎も感じていたのかもしれない。






ようやくこの話を書こうと思った時から書きたかったエピソードのひとつを形に出来まシタ。部屋割り騒動。
これからは外伝的というか、日常的な小咄がぽつぽつ出て来るかと思います。

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