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目が覚めた夜、言葉を交わす。
ふと目が覚めて、寝つけないので部屋を出る。灯の消えた場内は暗く、しかし廊下に出ると明かり取りの窓からは、柔らかな月の光が射し込んでいる。
庭に通じる廊下に人の気配を感じて見てみれば、小さな影が心細げにぽつんと座っているのが見えた。
「子供はとっくに寝てる時間だぜ」
意識して気配を殺したつもりはなかったのだが、気付いていなかったらしい。声をかけられてびくり。と、大きく震え、弾かれたように振り向いて、いつきは政宗を見上げる。
大きな瞳、あどけない子供の顔。けれどその瞳に宿る光はまるで、曇り空のようだと政宗は思っていた。
「眠れねぇのか?」
こくりと頷くいつきの右隣に腰掛ける。
気晴らし程度ですぐに部屋に戻るつもりでいたので、生憎、眼帯を外したままだった。他の者達ならともかく、いつきは政宗の右目のことを詳しくは知らない。無闇に怖がらせることもないだろう。と、満月でなかったことに少しだけほっとする。
「ここは嫌いか?」
元々農民で、親も兄弟もなく一人で生きて来た少女だ。いきなり武家の暮らしに放り出されて生活することには抵抗があるだろうというのは気付いていた。
行儀も作法も口煩く押しつけたりはしない。ただ、食事だけは政宗の都合がつく時は一緒に摂るようにとだけ言ってある。
政宗の問いに、いつきは小さく首を横に振った。
「村が懐かしいか?」
それは当然のことだろう。少なくとも、幼い頃は両親と過ごしてきた場所だ。
「よく・・・判んねぇ」
「そうか」
「ここも嫌いじゃねえ。おまえさ・・・殿様も、皆も、おらに優しくしてくれる。だども・・・」
「What?」
「どうしたらいいのか、よく判んねえんだ。毎日」
考えてみればこれまでずっと、一日働くのが当たり前だった。生きるため、食うために朝から晩まで働いて、そうやって生きてきた。
けれどここにいつきの仕事はない。皆は優しくて、時間さえあればいつきの処へ顔を出してくれるが、それでも、他には何もないのだ。
働くこともせず、それでも食事が出来る。それが落ち着かない。と、いつきは言った。
「Ah・・・Sorry. すっかり忘れてた」
彼女が土の民であることを忘れていた。土を耕し、種を植え、育てる。それが染み付いているのだ。
日がな一日ひなたぼっこをして過ごす。そりゃあたまにはいいかもしれないが、毎日では苦痛にもなるだろう。
「何かやりたいことがあるなら、遠慮なく言ってみろ。必要な物も揃えさせるぞ」
じっと考えるように、いつきは政宗を見る。やや長めの前髪が隠してくれているとはいえ、慣れていない者にこうして素顔を晒しているのは何だか落ち着かない。
「おら・・・小十郎さの畑の手伝いがしてえんだ」
「・・・そんなことでいいのか?」
むしろ拍子抜けしたように政宗は大きな声を出してしまい、慌てて周りを見回す。
寝所の傍で番をしている筈の小十郎はきっととうに政宗が部屋を離れているのに気付いているだろうが、他の休んでいる者達が起きたらことだ。
「小十郎さは殿様がいいと言えばいいって・・・でも」
「All right. All right」
自分より先に小十郎に話をしていた。というのは少しひっかかるが、まぁ、仕方のないことだとも思う。
「早速明日にでも、小十郎に伝えておこう。道具も必要なら用意させる」
「ありがとうだべ」
ふんわりと、少しだけほころぶようにいつきが笑う。
彼女の瞳に映る雲は厚く、けれど今わずかに、月に照らされて薄らいだように見えた。
実はプロローグの次に書いてあった話。これから触れていこうと思っていたネタにも微妙に触れた感じにしようと思ってたところがあります。
庭に通じる廊下に人の気配を感じて見てみれば、小さな影が心細げにぽつんと座っているのが見えた。
「子供はとっくに寝てる時間だぜ」
意識して気配を殺したつもりはなかったのだが、気付いていなかったらしい。声をかけられてびくり。と、大きく震え、弾かれたように振り向いて、いつきは政宗を見上げる。
大きな瞳、あどけない子供の顔。けれどその瞳に宿る光はまるで、曇り空のようだと政宗は思っていた。
「眠れねぇのか?」
こくりと頷くいつきの右隣に腰掛ける。
気晴らし程度ですぐに部屋に戻るつもりでいたので、生憎、眼帯を外したままだった。他の者達ならともかく、いつきは政宗の右目のことを詳しくは知らない。無闇に怖がらせることもないだろう。と、満月でなかったことに少しだけほっとする。
「ここは嫌いか?」
元々農民で、親も兄弟もなく一人で生きて来た少女だ。いきなり武家の暮らしに放り出されて生活することには抵抗があるだろうというのは気付いていた。
行儀も作法も口煩く押しつけたりはしない。ただ、食事だけは政宗の都合がつく時は一緒に摂るようにとだけ言ってある。
政宗の問いに、いつきは小さく首を横に振った。
「村が懐かしいか?」
それは当然のことだろう。少なくとも、幼い頃は両親と過ごしてきた場所だ。
「よく・・・判んねぇ」
「そうか」
「ここも嫌いじゃねえ。おまえさ・・・殿様も、皆も、おらに優しくしてくれる。だども・・・」
「What?」
「どうしたらいいのか、よく判んねえんだ。毎日」
考えてみればこれまでずっと、一日働くのが当たり前だった。生きるため、食うために朝から晩まで働いて、そうやって生きてきた。
けれどここにいつきの仕事はない。皆は優しくて、時間さえあればいつきの処へ顔を出してくれるが、それでも、他には何もないのだ。
働くこともせず、それでも食事が出来る。それが落ち着かない。と、いつきは言った。
「Ah・・・Sorry. すっかり忘れてた」
彼女が土の民であることを忘れていた。土を耕し、種を植え、育てる。それが染み付いているのだ。
日がな一日ひなたぼっこをして過ごす。そりゃあたまにはいいかもしれないが、毎日では苦痛にもなるだろう。
「何かやりたいことがあるなら、遠慮なく言ってみろ。必要な物も揃えさせるぞ」
じっと考えるように、いつきは政宗を見る。やや長めの前髪が隠してくれているとはいえ、慣れていない者にこうして素顔を晒しているのは何だか落ち着かない。
「おら・・・小十郎さの畑の手伝いがしてえんだ」
「・・・そんなことでいいのか?」
むしろ拍子抜けしたように政宗は大きな声を出してしまい、慌てて周りを見回す。
寝所の傍で番をしている筈の小十郎はきっととうに政宗が部屋を離れているのに気付いているだろうが、他の休んでいる者達が起きたらことだ。
「小十郎さは殿様がいいと言えばいいって・・・でも」
「All right. All right」
自分より先に小十郎に話をしていた。というのは少しひっかかるが、まぁ、仕方のないことだとも思う。
「早速明日にでも、小十郎に伝えておこう。道具も必要なら用意させる」
「ありがとうだべ」
ふんわりと、少しだけほころぶようにいつきが笑う。
彼女の瞳に映る雲は厚く、けれど今わずかに、月に照らされて薄らいだように見えた。
実はプロローグの次に書いてあった話。これから触れていこうと思っていたネタにも微妙に触れた感じにしようと思ってたところがあります。
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