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徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
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慶びと哀しみと

「虹、だ・・・」
 ふと見上げた空にそれを見つけた。降り注いだ恵みの雨のおかげか、木々も生き生きと眩しい緑色に輝いて見える。それらを見回して、いつきの頬が自然とゆるんだ。
「・・・きどの。いつきどの〜」
 遠くに聞き慣れた声。いつきは腰を上げて伸びをひとつ。それから大きな声で応える。
「政宗様がお帰りになられましたよ」
 微笑む初老の下男の言葉にうなずいて、傍にあったクワを取る。もう一度畑を見回せば、水をたっぷりと吸った野菜達が嬉しそうに露を弾いていた。

 伊達の軍が戦に勝ったという報せが届いたのは先日。近々戻る主人の凱旋のため、にわかに城の中は活気づいている。そんな中、いつきは一人、小十郎と共に育てている畑へと毎日のように足を運んでいた。
 政宗達が帰って来る。それは嬉しいことだ。けれどどうしても、素直に喜ぶことが出来ずにいる。勿論そんなこと、城の者達にはいえない。彼等にとって政宗は主人で、大切な人で・・・だからただ戦をして欲しくない。だなんて我が儘じみたことで困らせることは出来ない。

 伊達軍が戦に出ている間、落ち着かない気持ちを抱いて、それでもふと、世話をするべき者のいない畑のことに気が付いた。政宗の側近、片倉小十郎が精魂込めて育てている野菜達。彼のいない間は城の者が世話をすると聞いていたのだが、それをさせてくれないか。と、頼み込んでみた。
 頼まれた仕事を人に・・・しかも主人である政宗の客人にも近い少女に任せるのには多少の抵抗があったようだが、一緒に行って手伝うだけだ。と、いつきがあまりにも熱心に頼むので、その者も了承してくれた。だからここ数日、いつきは畑の世話をしている下男と一緒に外に出ていた。

 土に触れている間は、色々と悪いことを考えずに済んだ。春になって伸びてくる野菜達を見ていれば元気になれるし、何より、春の訪れを肌で感じられるのが嬉しい。
 城の中にはきれいな庭も、立派な食事も揃っていて、けれどやはり、いつきにとっては慣れぬものばかり。歳の近い者もおらず、各々の仕事をしている者達の邪魔をすることが出来ないから、話し相手もそうはいない。
 たった一人。伊達の城の中、いつきはたった一人でいるしかなかった。


 戻った城の中は慌ただしく、いつきは外の井戸で手足の汚れを落とし、邪魔をしないよう、そっと部屋に戻る。
 いつきのあてがわれた部屋は、幼い頃に政宗が使っていた部屋なのだという。城の他の部屋に比べればやや小さめとはいえ、部屋ひとつでいつきがかつて暮らしていた家一軒分より大きいくらいだ。その部屋の片隅にひとつ小さな文机があって、その上にはいつきのお気に入りの本が一冊置いてある。
 ふと見れば、文机の傍に行李が置かれていた。中には綺麗な小花柄の着物が、合わせた帯と一緒に畳まれており、ふと、いつきは己が今着ている着物を見下ろす。
 村で暮らしていた頃よりはずっと上等な着物。畑仕事をするのに邪魔にならず、汚れてもいい物だと政宗に貰ったものだ。けれどやはりそれは、この城の中では・・・特に今日のような場合には、浮いてしまっている。
 可愛い帯の結び方なんて知らない。これまで野良着しか着たことがなく、こんな綺麗な着物をどうやって着たらいいのだろう。けれど広げてみれば、その着物と帯ならば、いつきでもなんとか一人で着られそうだった。

 肌触りのいい襦袢を身に着け、着物に袖を通す。くすぐったいような気持ちになりながら、おぼつかない手付きで帯を締めた。きっとこんなに素敵な帯だから、飾り結びをしたら綺麗に違いない。けれど知らないものは仕方ないので、普段するように結ぶ。
 ちゃんと出来上がっているだろうか。それが気になったが、生憎この部屋には大きな鏡はない。少しばかり前に小十郎から譲り受けた小さな手鏡で、襟がおかしくないかだけを確かめた。ついでに髪の毛も、簡単に櫛を通す。
 少しだけ、手鏡に向かって笑ってみせる。口の端を持ち上げ、にっと笑い・・・小さく溜息をついた。




 重い鎧兜を脱ぎ捨て、取る物も取りあえず、まずは汚れを落とす。とだけ伝えて風呂に向かう。途中で目にしたいつきの部屋の障子が閉ざされていることにわずかに息をつき、すぐに視線を戻した。
 湯舟に浸かれば数日の疲れと汚れがじんわりと流れ出ていく。深く息をつき、風呂の縁に腕を置いて寄りかかり足を伸ばす。指先まで動かして伸ばしていけば、ようやく人心地がついたとばかりに、眠気が襲ってくる。
「政宗様」
「Ah〜?」
 あやうく落ちそうになった瞼が開かれる。奥州筆頭ともあろうものが、凱旋当日に風呂場で溺死。なんて洒落にならない。
「本日は夜に宴を用意させております。それまではごゆるりとお休みください」
「おう。お前もな、小十郎」
 静かに脱衣場から気配が消える。濡れた手拭いで顔を拭い、再び深く息を吐き出した。

 今回の戦によって奥州に基礎が築かれた。これで近隣で伊達を脅かす者はほとんどない。もともと勝ちの見えていた戦とはいえ、それでも、被害は全くないわけではなかった。
 小十郎は誰にも気付かれぬような小さな溜息を洩らす。
 本当は政宗が自ら伝えると言って聞かなかったのだが、小十郎はそれを止めた。普段ならそうも頑固に止めはしなかっただろう。けれど、今回ばかりはそうはいかない。そう思っていたのだ。
 今、この城の中にはあの少女がいる。彼女に気をつかうわけではないが、やはり、彼女の前でそれを政宗の口から告げさせるのに抵抗があった。
「片倉様・・・」
 呼び出した侍女は、おおよそのことは察していたのだろう。小十郎の言葉にうなだれ、小さくうなずくと、失礼します。とだけ言い残してその場を去った。
「遣り切れねぇな・・・」
 いつだって覚悟はある。けれど罪もない者達がああして哀しむ姿を見るのはいつだって慣れない。
 かたり。と、小さな音がした方を見れば、小さな少女が侍女の消えていった方を見つめているのが見えた。
「いつき・・・」
 静かに、まっすぐに、深い黒い瞳が小十郎の姿を捉える。政宗が贈った着物をぎこちなく身につけた少女の口が開くのを、何故か怖い。と思った。
「・・・あの、人の・・・」
 責めるような響きは一切なく、それでも、その声に胸が痛んだ。






またもや中途半端!ていうか筆頭の出番あれだけですか(苦笑)

とりあえず、思うところがあって「女中」から「侍女」へ表記を変更します。他の話のも手直ししますので〜

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