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いくさばにふるあめ。
霧のような春雨は冷たく、体を濡らす。
「Tear drop ・・・これは、誰の涙雨なんだろうな」
さぁさぁと静かに降る雨音に消えるほどに小さな声で、政宗が呟く声を聞き付け、小十郎が顔を向けた。
「今日は随分と大人しいですな」
「Ah?俺だってそう毎度毎度、先陣切って突っ込んでくわけじゃねぇぜ」
どうだか。と思ったが、黙って首を振るにとどめる。
「これが終れば、奥州は本当の意味でひとつにまとまる。そうなれば次は天下だ」
「はい」
「俺はな、小十郎。守るためだとあいつに言った」
守りたいのも本当、己の国の民だけでなく、全ての民が餓えたり奪ったり奪われたりすることのない国。追い詰められることのない暮らし。ひとつの国の主人として、城主という立場として、それを願うのは当然のことだ。
豊かな生活は発展を生む。今のように生き延びることに必死なままでは、何も残るものはないだろう。国が潤えば様々な分野で発展するものが増える。そうなれば国はまた豊かになる。今のように、作った端から壊されるようなことはなくなる。
自国だけではだめなのだ。自国を守っていたとしても、他の国からの侵略は免れない。特に尾張の織田は近年その力を伸ばし、自国周りだけでなく、その勢力を拡大しようとしているらしい。
国を、民を守るため。その言葉に偽りはない。けれど・・・
「多分それは、理由のひとつでしかないんだろうな」
政宗はまさに、この戦国に生まれるべくして生まれたのだろうと小十郎は思っている。時には激しすぎるほどの気性も、竜と称されるほどに戦場においての圧倒的なまでの力も。強い者を求め、それと対峙することに歓喜し、抜き身の刀のような殺気を放ち・・・それはまさに戦場に生きる武士。
けれどもし、戦のない世が来たら・・・
「俺はおそらく、強い者とやり合うことをやめられない。あのexcitement なfeeling 、ギリギリのtension 、それを捨てられるかと訊かれれば、答えはNo. だ」
戦も、戦をする侍も嫌いだ。
嗚呼、そりゃああながち間違いじゃねぇな。
自嘲する。自分は多分、いつきの嫌う侍そのものだ。
「けれど確かに、政宗様は今の奥州に・・・ひいてはこの国に必要な方だと私は思っております」
Ha!そりゃ買い被りすぎじゃねぇのか。と、いつもの調子で返されて、小十郎は少しほっとする。
戦に正しいも間違いもない。ただ等しく、弱い者から奪う。けれど政宗はそれを知っている。それを知っていて、だからこそ、少しでも早く収めようとしているのだ。
「伊達軍の者は皆、貴方を信じてついて来ているのです。大将である貴方がそんなことを言ってどうします」
「そうだな・・・竜にしちゃ、随分と弱気なことを言った」
「気持ちが折れれば、勝てる戦も負けましょう」
政宗の、稲妻を模した図柄のついた篭手が、力強く手綱を引く。
「OK. 今のは戯言だ。春の雨に酔ったらしい」
「はい」
その隻眼に、強い光が戻る。迷いのない光。幼い頃から彼の内にあったそれを小十郎は信じていた。
「Are you ready guys?」
はっきりと、冷たい雨の降る中に、政宗のよく通る声が響き渡る。それに続いて挙がる伊達軍の雄叫び。途端にその場の空気が変わった。
「OK. Ready・・・」
Go!のかけ声と共に、地面が鳴る。先頭を切って馬を走らせる政宗の隣につき、小十郎もまた、刀を抜いた。
地面が震えたような気がして、いつきはびくりと顔を上げた。部屋の外を見れば、いつの間にか雨が降り出している。
「今日は冷えますでしょう」
そう言って、顔馴染みになった侍女が火鉢に火をいれてくれた。
「今、地面が震えただ」
あらまぁ、そうでしたか?と、侍女は笑う。
「でも戦はここよりずっと離れた場所ですよ」
主人が戦に出ているというのに、この城の者達は随分と落ち着いているようだ。
「随分のんびりしてるだな。もし負けたら、とかは考えてねぇんだか?」
「そりゃあね。でも、政宗様が負けると思うんですか?」
少しだけ考えて、けれどどうしても、政宗が地面に倒れ伏している姿は想像がつかない。
「・・・だども、戦なんて絶対じゃないべ」
「その時は、私達が責任を持って、貴女を逃がします。そう仰せつかってますから」
そうじゃない。そんなことではないのだと、いつきは咄嗟に口に出せなかった。
「なして戦をするだ。どこに行っても、いつまで経っても終らねぇ」
「そうですね」
少しだけ困ったように笑うのを見て、いつきは自分がひどく駄々をこねているような気がしてしまう。
「でも伊達の当主が政宗さまになってから、この奥州は随分と良くなったんですよ」
それまでは、ずっと小競り合いの多い地だったのだと、侍女は教えてくれた。
「伊達家はもともと大きな家ですが、小さいながらも領地を持つ家は結構あって、それがしょっちゅう仲たがいをしていたんです。政宗様のお父様・・・輝宗様の代になってようやくそれが落ち着いてきて、政宗様が当主になると、それらを総てまとめて、奥州をひとつにされた」
そうすることで小競り合いが減り、今のように豊かになってきたのだと言う。
「政宗様は領民のこともちゃんと考えておいでです。贅を尽くすこともなく、いたずらに民を虐げることもなく」
「それは・・・知ってるだ」
政宗は、農民であり、異端でもあるいつきを同じ人間として扱ってくれた。時折城の外に出てみれば、大地は荒れておらず。豊かであることもすぐに判る。いつだっていつきを気にかけてくれて、城の者達のことも一人一人ちゃんと知っていた。
「おら、どうしたらいいんだべ」
あら、そんなの。と、嬉しそうに侍女は笑う。
「凱旋されたら、おめでとうと言って差し上げればいいんです。おかえりなさい。と言ってもらうだけで、男の人は嬉しいんですよ」
戦をするのは男。支えるのは女。帰る場所があるというのは大事なのだと、侍女は秘密の話でもするかのように、こっそりいつきに耳打ちしてくれた。
「誰か、おかえりって言う人がいるんだか?」
なんだかその話をする彼女がひどくきれいになったように見えて、いつきはふと、口にする。途端に侍女はあら、と両手で頬を包み、はにかんだように笑った。
「ええ、政宗様や片倉様には秘密にしといてくださいね」
この戦が終ったら、御報告するんです。と笑う彼女はとても可愛らしく、見ているいつきの方がなんだか顔が熱くなる。
「だからもう少ししたら、いつきちゃんとは会えなくなってしまうかもしれないのだけれど」
侍女達の中で彼女は比較的年齢が若く、いつきが気兼ねなく話せる一人だった。そんな彼女がいなくなってしまうのは寂しいが、おめでたいことなので、いつきも素直に喜びの言葉を送った。
「早く、戦が終ればいいだな」
少しだけほんわりと暖かくなった心で、冷たい春雨の降る庭をじっと眺める。静かに降りしきる雨が止んで、今頃濡れているであろう政宗達をお日様が照らしてくれますようにと祈りながら。
少し間が空きましたがようやく続きを⋯またもや短いですが。
このペースを保って、最後まできちんと書ききっていけるといいな〜とか⋯思ってはいます。
歴史を詳しく知る方には色々とあれ?なところもあるかもしれません。勉強不足なのもありますが、ある程度はこう⋯捏造ネタになるのは勘弁してください(てか、この物語自体がバサラの更にパラレル設定なんですけどね)
「Tear drop ・・・これは、誰の涙雨なんだろうな」
さぁさぁと静かに降る雨音に消えるほどに小さな声で、政宗が呟く声を聞き付け、小十郎が顔を向けた。
「今日は随分と大人しいですな」
「Ah?俺だってそう毎度毎度、先陣切って突っ込んでくわけじゃねぇぜ」
どうだか。と思ったが、黙って首を振るにとどめる。
「これが終れば、奥州は本当の意味でひとつにまとまる。そうなれば次は天下だ」
「はい」
「俺はな、小十郎。守るためだとあいつに言った」
守りたいのも本当、己の国の民だけでなく、全ての民が餓えたり奪ったり奪われたりすることのない国。追い詰められることのない暮らし。ひとつの国の主人として、城主という立場として、それを願うのは当然のことだ。
豊かな生活は発展を生む。今のように生き延びることに必死なままでは、何も残るものはないだろう。国が潤えば様々な分野で発展するものが増える。そうなれば国はまた豊かになる。今のように、作った端から壊されるようなことはなくなる。
自国だけではだめなのだ。自国を守っていたとしても、他の国からの侵略は免れない。特に尾張の織田は近年その力を伸ばし、自国周りだけでなく、その勢力を拡大しようとしているらしい。
国を、民を守るため。その言葉に偽りはない。けれど・・・
「多分それは、理由のひとつでしかないんだろうな」
政宗はまさに、この戦国に生まれるべくして生まれたのだろうと小十郎は思っている。時には激しすぎるほどの気性も、竜と称されるほどに戦場においての圧倒的なまでの力も。強い者を求め、それと対峙することに歓喜し、抜き身の刀のような殺気を放ち・・・それはまさに戦場に生きる武士。
けれどもし、戦のない世が来たら・・・
「俺はおそらく、強い者とやり合うことをやめられない。あのexcitement なfeeling 、ギリギリのtension 、それを捨てられるかと訊かれれば、答えはNo. だ」
戦も、戦をする侍も嫌いだ。
嗚呼、そりゃああながち間違いじゃねぇな。
自嘲する。自分は多分、いつきの嫌う侍そのものだ。
「けれど確かに、政宗様は今の奥州に・・・ひいてはこの国に必要な方だと私は思っております」
Ha!そりゃ買い被りすぎじゃねぇのか。と、いつもの調子で返されて、小十郎は少しほっとする。
戦に正しいも間違いもない。ただ等しく、弱い者から奪う。けれど政宗はそれを知っている。それを知っていて、だからこそ、少しでも早く収めようとしているのだ。
「伊達軍の者は皆、貴方を信じてついて来ているのです。大将である貴方がそんなことを言ってどうします」
「そうだな・・・竜にしちゃ、随分と弱気なことを言った」
「気持ちが折れれば、勝てる戦も負けましょう」
政宗の、稲妻を模した図柄のついた篭手が、力強く手綱を引く。
「OK. 今のは戯言だ。春の雨に酔ったらしい」
「はい」
その隻眼に、強い光が戻る。迷いのない光。幼い頃から彼の内にあったそれを小十郎は信じていた。
「Are you ready guys?」
はっきりと、冷たい雨の降る中に、政宗のよく通る声が響き渡る。それに続いて挙がる伊達軍の雄叫び。途端にその場の空気が変わった。
「OK. Ready・・・」
Go!のかけ声と共に、地面が鳴る。先頭を切って馬を走らせる政宗の隣につき、小十郎もまた、刀を抜いた。
地面が震えたような気がして、いつきはびくりと顔を上げた。部屋の外を見れば、いつの間にか雨が降り出している。
「今日は冷えますでしょう」
そう言って、顔馴染みになった侍女が火鉢に火をいれてくれた。
「今、地面が震えただ」
あらまぁ、そうでしたか?と、侍女は笑う。
「でも戦はここよりずっと離れた場所ですよ」
主人が戦に出ているというのに、この城の者達は随分と落ち着いているようだ。
「随分のんびりしてるだな。もし負けたら、とかは考えてねぇんだか?」
「そりゃあね。でも、政宗様が負けると思うんですか?」
少しだけ考えて、けれどどうしても、政宗が地面に倒れ伏している姿は想像がつかない。
「・・・だども、戦なんて絶対じゃないべ」
「その時は、私達が責任を持って、貴女を逃がします。そう仰せつかってますから」
そうじゃない。そんなことではないのだと、いつきは咄嗟に口に出せなかった。
「なして戦をするだ。どこに行っても、いつまで経っても終らねぇ」
「そうですね」
少しだけ困ったように笑うのを見て、いつきは自分がひどく駄々をこねているような気がしてしまう。
「でも伊達の当主が政宗さまになってから、この奥州は随分と良くなったんですよ」
それまでは、ずっと小競り合いの多い地だったのだと、侍女は教えてくれた。
「伊達家はもともと大きな家ですが、小さいながらも領地を持つ家は結構あって、それがしょっちゅう仲たがいをしていたんです。政宗様のお父様・・・輝宗様の代になってようやくそれが落ち着いてきて、政宗様が当主になると、それらを総てまとめて、奥州をひとつにされた」
そうすることで小競り合いが減り、今のように豊かになってきたのだと言う。
「政宗様は領民のこともちゃんと考えておいでです。贅を尽くすこともなく、いたずらに民を虐げることもなく」
「それは・・・知ってるだ」
政宗は、農民であり、異端でもあるいつきを同じ人間として扱ってくれた。時折城の外に出てみれば、大地は荒れておらず。豊かであることもすぐに判る。いつだっていつきを気にかけてくれて、城の者達のことも一人一人ちゃんと知っていた。
「おら、どうしたらいいんだべ」
あら、そんなの。と、嬉しそうに侍女は笑う。
「凱旋されたら、おめでとうと言って差し上げればいいんです。おかえりなさい。と言ってもらうだけで、男の人は嬉しいんですよ」
戦をするのは男。支えるのは女。帰る場所があるというのは大事なのだと、侍女は秘密の話でもするかのように、こっそりいつきに耳打ちしてくれた。
「誰か、おかえりって言う人がいるんだか?」
なんだかその話をする彼女がひどくきれいになったように見えて、いつきはふと、口にする。途端に侍女はあら、と両手で頬を包み、はにかんだように笑った。
「ええ、政宗様や片倉様には秘密にしといてくださいね」
この戦が終ったら、御報告するんです。と笑う彼女はとても可愛らしく、見ているいつきの方がなんだか顔が熱くなる。
「だからもう少ししたら、いつきちゃんとは会えなくなってしまうかもしれないのだけれど」
侍女達の中で彼女は比較的年齢が若く、いつきが気兼ねなく話せる一人だった。そんな彼女がいなくなってしまうのは寂しいが、おめでたいことなので、いつきも素直に喜びの言葉を送った。
「早く、戦が終ればいいだな」
少しだけほんわりと暖かくなった心で、冷たい春雨の降る庭をじっと眺める。静かに降りしきる雨が止んで、今頃濡れているであろう政宗達をお日様が照らしてくれますようにと祈りながら。
少し間が空きましたがようやく続きを⋯またもや短いですが。
このペースを保って、最後まできちんと書ききっていけるといいな〜とか⋯思ってはいます。
歴史を詳しく知る方には色々とあれ?なところもあるかもしれません。勉強不足なのもありますが、ある程度はこう⋯捏造ネタになるのは勘弁してください(てか、この物語自体がバサラの更にパラレル設定なんですけどね)
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