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ドーナツをあげましょう。
カロンカロン。と、軽やかなカウベルの音。ドアを開けて中に入れば、鼻をくすぐる油の香りはかすかに甘い。
「おう、お帰り慶次」
「ただいま〜」
「おかえりなさい、慶次」
迎えてくれるのは叔父と叔母の夫婦。とはいえ、二人とも年は慶次と十も離れていない。
「いらっしゃい片倉さん」
「ああ。随分早いな」
奥の席には、見慣れた顔。彼はその席が空いている時は、いつもそこに座っている。
「慶次、お昼は?」
「ま〜だ。何かある?」
飲食店のカウンターで、何かある?もないものだ。
「まつは今、手が離せないからな。オムライスでいいなら作るぞ」
「やりぃ!トシのオムライス好き〜」
平日の昼を少し過ぎたこの時間は、ランチタイムが終わってから夕方になるまでの、ぽっかりとした空き時間で人も少ない。今は片倉小十郎と慶次だけが席に座っていて、利家はカウンターの奥へと引っ込んだ。
ほどなく、利家がプレートを持って来る。本来ならサラダと、ハンバーグやフライのような一品ものなどが一緒に盛り付けられるためのランチプレートいっぱいに、大きなオムライスがどん。と乗っていた。
「チャーハンとかチキンライスとか、強火の炒め飯モノだけはまつ姉ちゃんより上手いよな〜トシ」
慶次の言う通り、チキンライスを包むようにして乗っている黄色い卵は、少しだけ破れてしまっている。それでも味はまつ仕込みなので折り紙つきだ。
「テストはどうだったのです?」
ジュウジュウと揚げ物の上がる音。まつの問いに、慶次は小さく肩をすくめた。
年がそこまで離れていない慶次をこの夫婦は快く迎え入れてくれて、一緒にいてくれる。親代わりだと恥ずかし気もなく言ってしまえるこの二人が慶次は好きだ。今の学校に通えるのも、この二人のおかげだと判っている。しかし、勉学はそこまで苦手ではないが、好んで自分からするほど好きなわけでもない。よって、テスト前はヘロヘロになりながら、悪足掻きをするのが常で、二人もそれはよく知っている。
「補習は、ないと思う。多分」
嘘をついたところでしょうがない。素直にそう言えば、まつは苦笑するように溜息をつき、利家はまぁまぁ。と笑った。
「遊びもほどほどになさいませ」
一応、保護者っぽく言い聞かせはするが、利家もまつもそこまでうるさくはない。ただし、人に迷惑をかけない範囲でなら。だ。
「ごっそーさま!美味しかった」
あれだけ大きなオムライスをぺロリとたいらげ、慶次は皿をさげる。厨房に入れば、まつが揚がったものをキッチンペーパー敷いた網の上に手際良く並べていた。
「ドーナツか〜」
ひょい。と手を伸ばしてひとつつまめば、こら。とまつに叱られる。けれど構わず、一口食べた。
「行儀が悪いですよ。慶次」
はーい。と良い子の返事だけして、皿を洗う。調理は出来ないが、ホールや下ごしらえ、片づけの手伝い等はよくするので慣れたものだ。
「あれ、これホットケーキ粉?」
ええ、そうですよ。と、まつは話しながらも最後のひとつを油の中から取り出し、並べた。
「どうせ遊びに行くのでしょう?」
ああ。と納得して、食後のコーヒーを飲む小十郎を見る。情報源は彼か、もしくはクラスメートだろう。ここは学校にも近くて、たまに生徒達も利用するのだ。
「人様に迷惑だけはかけるなよ〜」
「信用ねぇなぁ。オレ」
まつが手早く袋に詰めてくれたドーナツを受け取り、慶次は苦笑いする。揚げたてのドーナツの香りが、鼻をくすぐった。
「んじゃ、行ってきま〜す」
カロンカロン。軽やかな音を立てて、ドアが閉まった。
「騒がしくてすいません」
にこにこと甥が出ていくのを見届けて、利家が振り返り、小十郎に言う。小十郎は、小さく笑みをこぼした。
「いえ。いい御家族ですね」
「ありがとうございます」
ことり。と、手元に皿が置かれる。そこには揚げたてのドーナツがひとつ。そして、コーヒーを持ったまつが立っていた。
「よろしければどうぞ」
「ありがとう」
小十郎は、最後の一口を飲み終えたカップを手渡した。
保護者から見たら、彼等は危なっかしくて、でもきちんと個人として扱い、信じている。そういう感じで書けたらいいな。と。
伊達家も複雑ですが、前田家も結構複雑な事情があります。
「おう、お帰り慶次」
「ただいま〜」
「おかえりなさい、慶次」
迎えてくれるのは叔父と叔母の夫婦。とはいえ、二人とも年は慶次と十も離れていない。
「いらっしゃい片倉さん」
「ああ。随分早いな」
奥の席には、見慣れた顔。彼はその席が空いている時は、いつもそこに座っている。
「慶次、お昼は?」
「ま〜だ。何かある?」
飲食店のカウンターで、何かある?もないものだ。
「まつは今、手が離せないからな。オムライスでいいなら作るぞ」
「やりぃ!トシのオムライス好き〜」
平日の昼を少し過ぎたこの時間は、ランチタイムが終わってから夕方になるまでの、ぽっかりとした空き時間で人も少ない。今は片倉小十郎と慶次だけが席に座っていて、利家はカウンターの奥へと引っ込んだ。
ほどなく、利家がプレートを持って来る。本来ならサラダと、ハンバーグやフライのような一品ものなどが一緒に盛り付けられるためのランチプレートいっぱいに、大きなオムライスがどん。と乗っていた。
「チャーハンとかチキンライスとか、強火の炒め飯モノだけはまつ姉ちゃんより上手いよな〜トシ」
慶次の言う通り、チキンライスを包むようにして乗っている黄色い卵は、少しだけ破れてしまっている。それでも味はまつ仕込みなので折り紙つきだ。
「テストはどうだったのです?」
ジュウジュウと揚げ物の上がる音。まつの問いに、慶次は小さく肩をすくめた。
年がそこまで離れていない慶次をこの夫婦は快く迎え入れてくれて、一緒にいてくれる。親代わりだと恥ずかし気もなく言ってしまえるこの二人が慶次は好きだ。今の学校に通えるのも、この二人のおかげだと判っている。しかし、勉学はそこまで苦手ではないが、好んで自分からするほど好きなわけでもない。よって、テスト前はヘロヘロになりながら、悪足掻きをするのが常で、二人もそれはよく知っている。
「補習は、ないと思う。多分」
嘘をついたところでしょうがない。素直にそう言えば、まつは苦笑するように溜息をつき、利家はまぁまぁ。と笑った。
「遊びもほどほどになさいませ」
一応、保護者っぽく言い聞かせはするが、利家もまつもそこまでうるさくはない。ただし、人に迷惑をかけない範囲でなら。だ。
「ごっそーさま!美味しかった」
あれだけ大きなオムライスをぺロリとたいらげ、慶次は皿をさげる。厨房に入れば、まつが揚がったものをキッチンペーパー敷いた網の上に手際良く並べていた。
「ドーナツか〜」
ひょい。と手を伸ばしてひとつつまめば、こら。とまつに叱られる。けれど構わず、一口食べた。
「行儀が悪いですよ。慶次」
はーい。と良い子の返事だけして、皿を洗う。調理は出来ないが、ホールや下ごしらえ、片づけの手伝い等はよくするので慣れたものだ。
「あれ、これホットケーキ粉?」
ええ、そうですよ。と、まつは話しながらも最後のひとつを油の中から取り出し、並べた。
「どうせ遊びに行くのでしょう?」
ああ。と納得して、食後のコーヒーを飲む小十郎を見る。情報源は彼か、もしくはクラスメートだろう。ここは学校にも近くて、たまに生徒達も利用するのだ。
「人様に迷惑だけはかけるなよ〜」
「信用ねぇなぁ。オレ」
まつが手早く袋に詰めてくれたドーナツを受け取り、慶次は苦笑いする。揚げたてのドーナツの香りが、鼻をくすぐった。
「んじゃ、行ってきま〜す」
カロンカロン。軽やかな音を立てて、ドアが閉まった。
「騒がしくてすいません」
にこにこと甥が出ていくのを見届けて、利家が振り返り、小十郎に言う。小十郎は、小さく笑みをこぼした。
「いえ。いい御家族ですね」
「ありがとうございます」
ことり。と、手元に皿が置かれる。そこには揚げたてのドーナツがひとつ。そして、コーヒーを持ったまつが立っていた。
「よろしければどうぞ」
「ありがとう」
小十郎は、最後の一口を飲み終えたカップを手渡した。
保護者から見たら、彼等は危なっかしくて、でもきちんと個人として扱い、信じている。そういう感じで書けたらいいな。と。
伊達家も複雑ですが、前田家も結構複雑な事情があります。
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