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※焔野双珠。FES直前、3月半ばくらいで
昏く、深い闇。そこに落ちていくこの感覚はいつものこと。ただ、眠るたびにその深さが増して、這い上がることが困難になっていくように感じる。このまま這い上がるのをやめてしまったらどうなるのか。いや、それ以前に、這い上がれなくなってしまうのではないか。不安が更に落下速度を加速させるかのように、日々、闇の中を彷徨いながら落ちる。
現実は残酷なもの。よく耳にするフレーズが洒落にならない。嗚呼そうだよ。ここで這い上がれなかったら、なんて恥ずかしい。置いていくなんて許さない。身勝手だ。そんな青臭い恥ずかしいことを散々言って、自分が一番最初に抜けるなんて恥ずかしいことこの上ない。
そんなことを思いながら、上も下も判らない闇の中を進む。
ふと、いつだって同じ暗闇の中で、いつもと違うものが見えた。ぼんやりと、弱々しいそれは、まごうことない「光」だ。
慎重に足を運ぶ。焦って走ったところで、追いつけるという保証はない。だから確実にそれが近づいてきた時、逆に大丈夫だろうかと用心した。光は弱々しく、それでも確かに芯は…見覚えのある見慣れぬ少女はそこにいた。
くすんくすん。小さな子供のようにすすり泣く少女の手足は人間のそれとは違う。いつだって隣にいると懸命に言っていた鋼鉄の乙女と同じ体をしている。
「だぁれ?」
開かれた口から零れる声は鈴のようで、やっぱり双珠がよく知っている彼女のものとは違う。けれど、その声の響きに懐かしさを覚えた。
「こんにちは。どうして泣いているの?」
少し距離を取って、答えてみる。これは幻だろうか、妖だろうか。それとも、希望…なんだろうか。
「おねぇ、ちゃん…わたしを置いていってしまった。ずっと一緒だったのに。一緒にいたのに」
どうして、置いていくの。ひとりにするの。わたしはここにいるのに。一緒にいたのに。
双珠の存在など関係ないというように、同じ言葉を繰り返しては泣く。一歩近づいて、また一歩近寄って。そうして伸ばした手は、確かに少女の頭に触れた。
「会いたいよね。大事なんだよね。大事な人に、会いたいよね」
少女は顔を上げてうなずく。その体をぎゅっと抱きしめて、双珠も少しだけ泣いた。
「会いに行こう。どうやったって、足掻いて、ここから抜け出して」
まだ、大丈夫。まだ這い上がれる。浮上出来る。諦めるのは、もう少し先だ。
「おねえ、さん…?」
泣いているの?泣かないで。わたしあいにいくから。おねえちゃんにあいにいくから。
流れる血液のない機械人形の体は、それでもヒトの体のように温かかった。
目を開くと、見慣れた顔がのぞきこんでいた。
「いきなり目ェ見開くな。びっくりする」
さして驚いた様子も見せないで、荒垣はベッド横の椅子の位置を直して座る。
「夢を、見ました」
「そうか」
「女の子が、泣いてて。おねえちゃんに会いに行くって」
「いきなり起き上がると危ねぇぞ」
起き上ろうとしたところを、おでこをぐいと押されて頭を枕に押し付けられる。
「私、泣いてましたか?」
荒垣は何も言わなかった。ただ黙って、スポーツドリンクを差し出しただけだ。
今度はストップをかけられないようゆっくりと起き上がり、それを受け取った。
「会いたかったんです。私も。だから、起きて先輩がいてくれたのは嬉しい。」
皆に会いたいと、夢の中で強く想った。だから目が覚めて、そこに荒垣がいてくれたことがいつも以上に嬉しかった。負けられないと思った。
現実は残酷だと言うけれど、もしかしたら、少しくらいは何かがあるかもしれない。だから、せめて最後まで足掻いてみよう。そう思った。
3月の卒業式後でFES直前くらいな感じで。以前に書いた「フェス<後日談>」の続きだったりします。
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