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※穂村炎樹ルート(男主人公・正規ルート)でFES後日談
主人公が微妙にひとでなし。

炎樹→ゆかりな感じ。


 あの瞬間。あの最後の瞬間、忘れて、忘れられてしまうのが判っていて、それでも言わずにはいられなかった。
 ボロボロになって、それでも振り向いて力なく笑いかけてくれた。それを見たら堪らなくなって、ずっと心に秘めていようと思った言葉が口をついで出ていた。

 左右の頬にそれぞれ一回。そして額に一度、触れるようなキスをして、そして「ごめんね」と言った彼の笑顔があまりにもキレイで。だからあたしは、思いっきり引っぱたいてやったのだ。




「…嫌なこと思い出しちゃった」
 タンスの奥までのぞきこんで、一人ごちる。
 皆の前での告白と、直後の完全な玉砕。少しも希望なんか持たせてくれなかったアイツ。
「っかしーな。確かこの辺に突っ込んどいた筈なんだけどな~」
 仕方ないから、タンスの中のものを引っ張り出して、奥を見る。あるべき筈の物がない。服を一枚一枚広げて、挟まったりしてないか調べたけれどない。
「あんなもの、そうそう出すもんじゃないしね」
 もうずっと、しまいこまれていた。あの時から、アイツの思い出と一緒にタンスの奥に封印して、そのまま忘れてしまうつもりだったのに…

 地下に現れた謎の扉と、今日という日を繰り返す現象。もう二度と手にすることはないと思っていた召喚器と、あの頃は少し誇らしげにつけていた腕章を、今更引っ張り出してくることになるなんて、思いもしなかった。
「あぁ~もう!どこいったのよ」
 仕舞ったのは自分。だから、見つからないならどこか別のところに仕舞ったのかもしれない。でもそれを探すのももう面倒臭い。
「もういい!」
 別に、なくても支障はないのだ。ただ、もう一度あの力を使うことになりそうだとなった時、自分も含め仲間達は全員、自然とあの頃のように、制服に着替えようと思った。制服に腕章。そして召喚器。当たり前のようにそのスタイルが、皆の戦闘服になっていたから。
 同じ日を繰り返すとはいえ、自分達はその流れとは切り離されている。どれだけ時間があるのかも判らない今の状態の中、これ以上時間を費やすのは無駄だと判断し、簡単に抜き出した服を畳んでベッドの上に重ねておく。どうせ明日になったら、引っ越し荷物として段ボールに突っ込むのだ。
「ゆかりさん」
 ノックの音とともに、アイギスの声がする。
「ちょっと待って」
 ドアを開ければそこにはアイギスが立っていた。一枚の見慣れた腕章を手に持って。
「これを」
 差し出された腕章に視線を落とし、それからアイギスの腕を見る。そこには確かに、赤い腕章がかけられていた。
「ごめんなさい。ずっと言えなくて…」
「何でアイギスが?あたしの腕章…」
 ふるふると、アイギスは首を横に振った。
「違います。これは、ゆかりさんのじゃありません。ゆかりさんの腕章は、もう、ないんです」
 ごめんなさい。すぐに渡すべきだったのに、私には出来ませんでした。そう、うつむくようにして話すアイギスの声が少し遠い。また足元が揺れているような気がして、思わずドアを掴んでいた。
「あの人の、願いだったから…勝手に部屋に入ってしまって、ごめんなさい」
「なん…で?だって、あたし・・・」
 棺に眠る彼の片隅に、真っ赤な腕章が置かれている光景。白い花の中、埋もれていく赤がひどく印象的だったのが今でもはっきり思い出せる。
「あれが、ゆかりさんのでした。ゆかりさんの腕章は、あの人と一緒に…」
 だから、代わりにこれを。と、頼まれました。と、アイギスは手にした腕章を差し出した。
「ごめんなさい。私、悔しかったんです。あの人の、最後の願いだったから」
 どうしても、渡せなかったんです。そう言うアイギスの顔は、紛れもなく「女の子」だった。
 震える手で、差し出された腕章を受け取る。確かにこれはゆかりの使っていたものではない。所々小さく、切れたような傷や、汚れがある。
「…どうして…っ!」
 問うても答える者はもういない。
「ゆかりさんと、私に伝言です。「ズルばっかりで、ごめんね」だそうです」
 もう、何も言えなかった。こんなタイミングで、聞きたくはなかった。けれど、今だからこそ、その謝罪のさすものが何なのかも判ってしまうから。
「アンタもあたしも、なんて…ロクでもない男に引っかかったんだろうねぇ」
 じんわりと、手にした腕章の輪郭が滲んで見える。あれだけ泣いて、忘れようと他のことに没頭して、それでもこうして、カウンターをくらわされてまた泣けてしまう。
「あの、馬鹿…ていうか、馬鹿」
 あれは、さようならのキスだったの?あれであたしが楽になると思った?ばっかみたい!好きだったのよ。そんな急に嫌いになったり、どうでもよくなったりなんて、なるわけないじゃない。
「本当に、男って、馬鹿…」
 でももっと馬鹿なのは、自分。忘れようとして、目を背けるほどに忘れられない。日常に埋もれさせることなんて出来なくて、でも意地になって、忘れようとして…
「ねぇアイギス、今度ゆっくり、あの馬鹿の話、しよう」
 少し擦り切れて、汚れた腕章を腕につけて、ゆかりは顔を上げる。
「行こう」
 なんだか少しだけ、背負っていたものが軽くなった気がして、胸を張って部屋を出た。





 本編ラストからFES後日談で。

 一度本編ラストで、ゆかりを悲しませたくないとか思いつつ、思いやりが思いっきりナナメ上に行った上、やっぱりいざとなったら怖くて、忘れられたくなくて足掻いたりするのが炎樹だったりします。

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