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荒垣真次郎。
※焔野双珠。FES直前、3月半ばくらいで
色々捏造設定有りなのでご注意。
※焔野双珠。FES直前、3月半ばくらいで
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こんなにも不安なものだったのかと思い知らされた。
まるで入れ違いのように、失われた記憶が戻るのとほぼ時を同じくして、退院した荒垣の代わりに双珠が入院したのは今月の初め、美鶴と真田の卒業式のすぐ後だった。病名などは一切不明。ただ、ひどく深い眠りに陥ることが続く。眠る時間と起きる時間に規則性はなく、ただ、最近になって眠る時間が増えてきているという。
皆、不安なのだ。それを隠すようにして、振り払うようにして各々の生活へと戻っている。時々病院に顔を出しても、双珠が必ず起きているという保証はない。新学期に向けて、新生活に向けての準備もある。そんな中、他のメンバーに比べると時間に自由の利く荒垣が比較的足繁く双珠の病室に通うようになっていた。
双珠自身が男女交際というものについてどの程度の認識なのか判らないが、プロポーズもどきの告白をされてそれを受けた以上、傍から見れば「付き合って」いる関係なので、同級生でもなく、制服姿でもない荒垣が頻繁に訪れても看護師達はそうそういぶかしむような顔も見せない。
荒垣の入院時、双珠はしょっちゅう病室に顔を出していた。夜はタルタロス探索で忙しいだろうに、無理をしなくていいと言っても、挨拶だけでもしたいんです。と、ちょくちょく顔を見せていた。今なら、あの時の双珠の気持ちが少しわかる。
不安。
目を離したらふと消えてしまうのではないか。手の届かないところへ行ってしまうのではないかという不安が常に付きまとう。少しでもいいから目を覚まして。声を聴かせて。そんな思いだったのではないか。それを今度は自分が味わうことになるとは思わなかった。だが、こうなって初めて、自分の行いがいかに皆のことを考えていなかったのかを思い知った。
「だから、お前もちゃんと戻って来い」
ほとんど寝息すら立てず目を閉じている双珠を見下ろして呟く。その寝顔は、微かに上下する胸と、計器の表す動きがなければ、そのまま息をしていないんじゃないかと思えるほど静かだ。
出会った頃は男か女か、一瞬では判らなかった中世的な顔立ち。それは変わらない筈なのに、最近は誰が見てもちゃんと女の子に見える。体型が劇的に変わったとかそういうのではなく、漠然と「何か」が変わったとしか言いようがないのだが、それは11月を過ぎてから特に顕著になったと思う。双珠も、色々と狂わされてきたのだ。その人生を。それをこれから取り返せないなんて、嘘だ。
ベッドの脇のイスに腰掛け、じっと横顔を見つめる。こうしていても目が覚めるわけじゃない。でも、見ていたいと思ったのだ。
ふと、閉じられた目尻に光るものが見えた気がして、その顔をのぞきこむ。細く、一筋の涙が落ちていくのを見て、柄にもなく戸惑った。
おそらく、こいつはそれを見られることを嫌うだろう。ベッドの上に屈みこむようにして、両目から流れた雫を拭う。その直後、突然閉じていた両目が開かれた。
ひどく近くに見えた目は遠くを見るでもなく、しっかりと荒垣を捕えていた。
「びっくりするじゃねぇか」
そう言う声がひっくり返っていないか心配になったが、どうやら大丈夫だったらしい。
「私、泣いてましたか?」
夢を見ていたのだと、そこで女の子に会ったのだと言う。それがどうしてあの涙に繋がるのか荒垣には判らなかったが、ただ深く、そのまま命を手放してしまうのではないかという眠りより、まだいいような気がした。でも、それを言ったらきっと嫌がるだろうと思って黙っていたが…
不安なのだ。仲間も、自分も。そして当事者である双珠も。
その不安が杞憂であることを、今はただ祈るしか出来ないのが歯がゆかった。
「闇の中出会う」の荒垣先輩サイドで。
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