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おかえりなさい(未完)
部屋の隅にうずくまり、耳を塞ぐ。聴こえてくることはないだろうと判ってはいても、どうにも苦しくて仕方ない。
「息災だったようだな」
「みんなが・・・優しくしてくれて、ごはんも、うまかったし。土も、風も・・・」
小十郎が困っているであろうことは雰囲気で判る。だが、顔が上げられない。その顔を真直ぐに見ることが出来ない。
「あの人は、どうなるだ」
先ほどの、少し歳のいった侍女のうなだれた様子がまた脳裏に蘇る。
「どう。というと」
「だって、お侍だった旦那さんが亡くなったんだべ。そしたら、城には」
ああ。と、小十郎は合点がいった。
「心配することはない。本人にその気があれば、変わらずここにいることになるだろう」
確か彼女にはまだ歳若い息子もいた筈だ。これからの季節はどこの家も忙しいだろうが、それだけで生計を立てるよりも、ここで働いていた方が生活は保証される。
「・・・あの人の、旦那さん?」
「ああ」
それは、避けられない現実。全くの無傷で治められるのならば、もっと早くにそれをしている。それが出来ないから、戦が起こる。
「政宗は、知ってるだか?」
「ああ。政宗様は彼女のことも、彼女の夫であった男のことも、きちんと知っていらっしゃる」
やっぱりそうか。という少女のつぶやきに、小十郎は少しばかり驚いた。彼女は政宗や小十郎、そして一部の側近達以外では、侍女達との交流があるだけで、あまり伊達軍のことは知らない筈だ。第一、秘密裏に連れられて来た彼女のことは、伊達軍の中でも限られた者しか知らない。
「政宗は、城の中のもんのこと、全員ちゃんと知ってるんだな」
少しだけ、殻のように強ばったいつきの周りの空気が弛んだような気がした。
「あの方は、そういうお人だ」
「うん」
いつきは侍をよく知らない。武家のしきたりも、殿様の暮らしも。彼女が今まで見て来た侍は、襲い、奪い、人を人とも思わず、その名も、顔も覚える必要などないのだという様子がありありと見てとれていた。
けれど政宗は、まずいつきに名を訊ね、それから己の名を名乗った。侍の名乗りは戦では当たり前のことだが、たかが農民にそれはしない。そんなことをしても意味がないから。
だから、当たり前の人間のように扱われて、逆にびっくりした。それから政宗はいつきのことを「お前」だの「ゆう」だのと呼ぶことのが多くて、ちゃんと名前を覚えているのかと思ったこともあるけれど、時折見られる彼の日々の様子を見ていて気付いたのだ。
政宗は、城の中の者達をきちんと知ってるようだった。顔も名も。もしかしたら。と思った時、いつきは無性に嬉しく思ったものだ。
続きます(汗)
「息災だったようだな」
「みんなが・・・優しくしてくれて、ごはんも、うまかったし。土も、風も・・・」
小十郎が困っているであろうことは雰囲気で判る。だが、顔が上げられない。その顔を真直ぐに見ることが出来ない。
「あの人は、どうなるだ」
先ほどの、少し歳のいった侍女のうなだれた様子がまた脳裏に蘇る。
「どう。というと」
「だって、お侍だった旦那さんが亡くなったんだべ。そしたら、城には」
ああ。と、小十郎は合点がいった。
「心配することはない。本人にその気があれば、変わらずここにいることになるだろう」
確か彼女にはまだ歳若い息子もいた筈だ。これからの季節はどこの家も忙しいだろうが、それだけで生計を立てるよりも、ここで働いていた方が生活は保証される。
「・・・あの人の、旦那さん?」
「ああ」
それは、避けられない現実。全くの無傷で治められるのならば、もっと早くにそれをしている。それが出来ないから、戦が起こる。
「政宗は、知ってるだか?」
「ああ。政宗様は彼女のことも、彼女の夫であった男のことも、きちんと知っていらっしゃる」
やっぱりそうか。という少女のつぶやきに、小十郎は少しばかり驚いた。彼女は政宗や小十郎、そして一部の側近達以外では、侍女達との交流があるだけで、あまり伊達軍のことは知らない筈だ。第一、秘密裏に連れられて来た彼女のことは、伊達軍の中でも限られた者しか知らない。
「政宗は、城の中のもんのこと、全員ちゃんと知ってるんだな」
少しだけ、殻のように強ばったいつきの周りの空気が弛んだような気がした。
「あの方は、そういうお人だ」
「うん」
いつきは侍をよく知らない。武家のしきたりも、殿様の暮らしも。彼女が今まで見て来た侍は、襲い、奪い、人を人とも思わず、その名も、顔も覚える必要などないのだという様子がありありと見てとれていた。
けれど政宗は、まずいつきに名を訊ね、それから己の名を名乗った。侍の名乗りは戦では当たり前のことだが、たかが農民にそれはしない。そんなことをしても意味がないから。
だから、当たり前の人間のように扱われて、逆にびっくりした。それから政宗はいつきのことを「お前」だの「ゆう」だのと呼ぶことのが多くて、ちゃんと名前を覚えているのかと思ったこともあるけれど、時折見られる彼の日々の様子を見ていて気付いたのだ。
政宗は、城の中の者達をきちんと知ってるようだった。顔も名も。もしかしたら。と思った時、いつきは無性に嬉しく思ったものだ。
続きます(汗)
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