忍者ブログ
徒然と小咄など。現在BASARA2メイン。 かなりネタバレや捏造もございます。御注意! あくまでも個人のファンサイトです。 企業様とは関係ありません。
122  121  120  119  118  116  115  113  112  111  110 
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 嗚呼、あの懐かしき夕暮れとコロッケの匂い

 夕方に差し掛かる時刻の商店街は買い物客や家に向かう人達で賑わっている。そんな中、いつきは買い物カゴを持って歩いていた。
 今どき個人商店でも買い物袋をくれるが、いつきが夕食の買い物に行く時はいつもこれだった。エコバッグなるものも昨今では流行っているらしいが、レトロなこのカゴをいつきは嫌いじゃなかったし、何より、これは政宗と小十郎がくれたものだ。
 まだ今より少し小さかった頃、いつきの買い物はこれに入るだけ。と、政宗が選んで、小十郎が買ってくれた。そういえばあの時は珍しく三人で買い物に行ってたんだっけ。なんて、そんなに古い記憶ではない筈なのに、何となく懐かしく感じる。

 今日の夕食はいつきが作る。とはいえまだまだ料理は修行中の身で、一緒に政宗が手伝ってくれる。政宗は今日は少し遅くなると言っていたから、先に買い物だけ済ませてしまおうと、一人やって来た。
 買う物は朝のうちに政宗がメモをして、財布と一緒に置いていてくれたので悩むこともない。ただ、デザートに使うのだろうか。メモの中にあった「リンゴ」だけは、じっくりしっかり、他のものよりも時間をかけて選んだ。リンゴはいつきの好物のひとつで、そのままでも勿論美味しいし、政宗がそれを使って作ってくれるデザートも大好きだ。
「政宗、またあの甘いの作ってくれないかな〜」
 先日食べたシロップ漬けを思い出して、こくんと唾を飲み込んだ。
 買い物はそう多くはなく、カゴもそれなりの重さで、それを持っていつきは商店街を家へと向かって歩いて行く。

「おう、コロッケ三つで」
 威勢のいい声に思わずそちらを向けば、見たことのある学生服を着た青年が肉屋のカウンターに寄りかかるようにして笑っている。
 この商店街は駅に繋がっているから、近隣の高校に通う生徒の姿を見ることも珍しくはない。けれど彼は人の目を惹かずにはいられなかった。
 背が高く、がっしりとした肩幅。特徴的な銀色の髪を無造作にかき上げるようにセットして、豪快に笑う。何よりその顔の左半分を覆うようにかけられた眼帯・・・
 政宗も眼帯をしているが、彼のはまた違って、刀の鍔を模したような形をしている。目の前の学生は、鮮やかな藤色をした布のようなものでその左目を覆っていた。
 いつきはその人を知っている。
 そう言っていいのかも判らないが、少なくとも初めて見る顔ではなく、一応、言葉も交わしているから、知っている。でいいのだと思う。
「お、こないだの政宗と一緒にいたちいこいのじゃねぇか」
 店の者から紙袋を受け取り、早速ひとつ取り出してぱくついて、彼はいつきに気付いた。
「こ、こんにちはだべ」
 そうまじまじと見ていたつもりはないのだが、気付かれるくらい見てしまっていたのだろうか。失礼なことをしたと思ったが、相手はそう気にしている様子もない。
「偉いな、買い物か?」
「うん。兄ちゃんは・・・買い食い?」
 おやつの時間には少し遅くて、夕飯の時間には少し早い。それにこの店のコロッケは、中高生に人気があると聞いている。
 揚げ物のいい香りが流れてきて、いつきは思わずそちらを見る。ケースの中に並んでいるコロッケは、きれいなきつね色に揚がっていて美味しそうだ。
「ふぅん」
 ぺろりとひとつたいらげて、青年は店に向き直る。
「コロッケひとつ、追加な」
 そんなにいっぱい、今食べるだか!?と驚いたいつきの前に、紙に包まれたコロッケがひとつ、差し出された。
「ほれ」
 驚いて差し出されたコロッケと、少し屈むようにして正面に立つ青年を交互に見る。遠目には恐そうだと思ったのだが、こうして見るとそこまででもない。声はまだ少し恐いが、それでも優しさを感じられた。
「あ、ありが、とう」
 受け取ったコロッケを手にして、きょろきょろと周りを見回す。少し離れた処にベンチを見つけて、いつきはそちらを向いた。
「何だ?」
「歩き食いは行儀悪いんだべ」
 ああ。と、青年が笑う。そのまま何となく、二人は一緒にベンチまでいって、並んで腰掛けた。
「いただきます!」
 御飯前だけど、目の前のそれはひどく魅力的で、かぶりつかずにはいられない。
「そうだ、ごめんな。兄ちゃんの名前、おらまだちゃんと覚えてないだ」
「ああ、そうか。そういやオレもお前の名前、ちゃんと聞いてねぇな」
 彼と出会ったのは一度きりで、一緒に弁当を食べた仲とはいえ、ほとんど会話らしい会話もしなかった。自己紹介もまともにしてないことに気付いて、いつきは改めて名乗る。
「オレは長曾我部元親。よろしくな、いつき」
「ちょう・・・かべ?」
「ち・ょ・う・そ・か・べ。まぁ、言いにくいなら元親でいいぜ」
 もとちか。モトチカ。と何度か口の中で転がすようにつぶやいて、それからいつきはぱぁっと笑って顔を上げた。
「じゃあチカちゃんだな」
「何だそりゃ」
 そう言いながらも、それも悪かねぇな。と、元親は豪快に笑う。
「チカちゃん、どうもありがとうだべ」
「おうよ。あの店のコロッケは天下逸品なんだぜ」
 誇らしげに笑う元親と笑顔を交わし、いつきもまだ温かいコロッケにかぶりつく。ほくほくのコロッケは柔らかく口の中で溶けた。
「旨いだろ?」
 うん。とうなずくと、嬉しそうに彼ももうひとつ、袋から取り出してぱくりと一口。同じ一口でも、いつきと元親では大違いで、あっという間にもう一つのコロッケは彼の手の中から消えた。
「そんなに食べて、夕飯入るだか?」
「ああ?こんなん前菜にもなりゃしねぇよ」
 そういえば、先日も彼(正確には彼等。だが)は豪快に弁当を食べていたことを思い出す。
「男の人って、いっぱい食べるだなぁ」
 政宗も小十郎も、いつきよりは食べるが、慶次や利家に比べれば全然少ない方だと思う。どちらが基準になるのかは判らないが、こうして元親の食べっぷりを見ると、政宗達はどちらかというと小食なんだろうか。と、いつきは思った。
「そういや、自分で作るのか?」
「おらは手伝いだけだ。まだまだ教わってるだけで、ほとんど政宗達がやってくれるだよ」
 ああ、そういやアイツ、そういうの得意みたいだもんなぁと、元親はいつきの知らない政宗のことを話してくれる。
「チカちゃんは作らないんだか?」
 オレは基本、焼くとか煮るだけだなぁ、そういえば。と、元親は少しだけ空を見て考えるように言う。そして、がばっと身を起こした。
「でもまだマシな方なんだぜ。ほら、こないだ一緒にいたぶあいそーなヤツ」
 あれ、毛利って言うんだけどな。と、おかしそうに笑いながら元親は手にした紙袋から最後の一枚を取り出した。
「あの細っこい兄ちゃんか?たくさん食べてた」
「そうそう、あいつ。なんかこう、何でも出来そうな面してんだろ」
「うん」
 それがあいつ、すっげー料理オンチでさぁ、こないだなんて、調理実習で揚げ物したら、政宗のやつ真っ青になってたんだぜ。ああ、なんたってな、油の中に文字通り放り込んだんだよ、しかもよりによってイカフライ。
 思い出したのか、腹を抱えて笑う元親を見ながら、いつきにはその時の政宗の様子が思い浮かぶようだった。
「政宗のヤツがちゃんと下処理してたからまだ良かったんだけどな、いやもう、ふつーしねぇよなぁ、熱した油の中に勢いよく物放り込むなんて」
「危なかっただな。火傷しなかったんか?」
「おうよ。まるで勇者よろしく鍋蓋持って、政宗がそれを油から引き上げた時にゃあ、拍手が起きたね」
 笑う元親につられて、いつきも笑う。気付けば彼の手にあった筈のコロッケはもうなくて、大きな手はくしゃくしゃっと空になった紙袋を潰して、近くのゴミ箱に放り込む。きれいな弧を描いて紙袋だった塊はゴミ箱に収まった。
 上手くいったのが嬉しいのか、にかっと笑いかけた元親と、それから己の手の中の残ったコロッケを交互に見る。そうして、それを半分にちぎった。
「何だ?遠慮するなよ」
「ううん。おら、あんまり食っちまうと御飯、入らなくなっちまうから」
 大きい方の欠片を差し出すと、サンキュ。と言って元親はそれを受け取った。
「チカちゃんは、美味しいお店を知ってるんだな」
「おうよ。この商店街のほとんどは知り合いだからな」
「じゃあ今度、また美味しいお店教えてくれるだか?」
 ようやくいつきが食べ終えた時には、とっくに元親は半分のコロッケもたいらげていて、油のついたその指先を舐めながら、笑った。
「おう!任せとけ!」

 気がつけば結構陽も暮れてきていて、きっと早く戻らないと政宗が心配するな。と、いつきはベンチを立った。
「じゃあチカちゃん、またな」
「おう、またな」
 お互い再会を誓うように、簡単な挨拶を交わして右と左。

 商店街の中に漂う香りは空腹を誘い、人々を家へと急がせるのだった。







 君とデートを書いた直後から、ずっと書きたいと思っていたのでした。いつきと政宗のクラスメートでもある瀬戸内組。次は毛利(笑) 
 何故か速攻、夕方の商店街でコロッケ。というのが元親とのシュチュエーションでまず思いついたものでした。なんでコロッケ・・・?

 こう、来てくださる方々に喜んで貰えるものってどんなだろう。と思いつつも、好き勝手書いてしまっててスイマセン(苦笑)自己満足にもほどがあるというか・・・

拍手[3回]

PR
天野宇宙にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
可愛いぃぃ!
最新CMに名前が並びつつあってすみません、有栖です。
買い食いの上コロッケ3個半が前菜にもならんとは!さすがだぜアニキ!
買い物かごを抱えるいつきちゃんを想像すると、これまたかわゆさに悶えまくりにございます…!

それに致しましても毛利…!イカは危険ですね!
是非ともまた、見た目パーフェクト毛様の3分クッキング失敗談を披露していただきたいところです。

それでは本日はこの辺にて。
有栖 URL 2007 . 06 . 25(Mon)06:04:38 編集
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする →
カレンダー
02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
最新CM
[07/29 明都]
[12/06 天野宇宙]
[12/06 トモシ]
[06/27 東篠 永]
[06/11 NONAME]
最新TB
プロフィール
HN:
天野宇宙
性別:
非公開
趣味:
読書
自己紹介:
・映画を見るのも好き
(娯楽系メイン)
・アーケードゲーム最愛
 月華の剣士第ニ幕
・BASARAは伊達いつ推し。
・銀魂は土神寄り。
⋯マイナーカプ好き?
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
HOMEへ戻る
忍者ブログ | [PR]
shinobi.jp