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股下10センチの絶対領域
嫌でも目についてしまう、白い肌。好んで着ているのだろうが、赤い服に、夜兎の特徴でもある色白の肌がひどく映える。
「おーぐしくんっ」
声をかけられて橋の下を見れば、見慣れた桃色のお団子頭。ひらひらと手を振るのを無視したら、傘がロケット並みのものすごい勢いで飛んできた。
「おまっ!あっぶねーだろうが!」
咄嗟にキャッチした傘は、そのまま下に投げつけることも出来たが、いかんせん、人の目がある。仕事着でそれをやるには、世間体が悪すぎる。
仕方なしに土手を下りていけば、橋の下の日陰でチャイナ服の少女が胸を張って手を伸ばす。
「危険物でぼっしゅーすんぞ。次やったら」
「おーぐしくんはいたいけな少女を日光で殺す気カ?」
「いたいけな少女は、あんなビルをも吹っ飛ばすようなイキオイで傘投げねぇよ」
夜兎である神楽にとって、夏の直射日光は厳しすぎることを知っている。そしてそれを土方が知っていることも織り込み済みであろうことがなんとも腹立たしい。
「お前…いくら暑いからって、そりゃねぇんじゃねえか?」
膝上、なんてもんじゃない。股下。と言った方がいいくらい短い、チャイナのワンピース。色気なんて欠片も感じないが、さすがに大人として、これは注意すべきじゃないかと思った。
「ガキが色気づいて、そんな短いのを着るなよ。色気から何から全く足りてねぇだろうが」
「視線がやらしいね。このヘンタイおまわり」
「アホか。子供ならもっと子供らしいカッコしろって言ってんだ」
大体にして神楽は、他の同じ年頃の少女より活発なのだ。飛び蹴り回し蹴り何でもありで、アクロバティックな動きだって当たり前のようにする。
「せめてズボン穿くか、スパッツとか…」
「おっさん」
「何だとこら」
「レギンスとか言えヨ、せめて」
知るかそんなの。と、腹立ちまぎれに煙草に手を伸ばす。口に咥えて、とりあえず火をつけるのだけはとどまった。
「とにかく、そんなんじゃパンツ見えるぞ」
「ダイジョーブよ。ヒモパンだから」
うっかり煙草を吹き出した。火がついてなくて本当によかった。そうでなければ、火事を出すところだっただろう。
「おまっ…子供に何着せてんだあの万事屋」
「違うヨ~。もともとはふつーのパンツだったのが、擦り切れてヒモパンに…」
「もっと問題だろうが!」
子供とはいえ、10代の年頃の少女。それが口にしていい言葉ではないが、その辺りはスルーすることにして、とにかく生活が苦しいにしても、それはないだろう。と心の中で突っ込む。
「ヒモパンかそうでないかはともかく、そんな短い丈の服着てたら、ヘンタイ共の餌食になるだろうが」
「いや、これ上着ヨ?下の方、川に流されてしまったね」
「な ん で だ !」
いや、暑くて川入ったらズボン濡れて、丁度丈長い上着だし、濡れたままだと気持ち悪いから乾かそうと思って脱いだところに風が吹いたね。なんて、スラスラとまぁ、よくも言えたものだ。
「いいか、外で簡単に脱ぐな」
「でもお前んトコのゴリラなんて…」
「お前は女だろうが!それから、パンツパンツ言うな。もっと慎みを持て」
もはやどこからツッコミを入れていいのかも判らなくて、おそらく自分が言ってることはどこかおかしいんだろうな。という自覚も頭の片隅にあったが、まず何より、痴女として逮捕されかねないこの状態をどうにかしなければいけない。
「これ貸してやるから、腰に巻いて。見えないようにしとけよ。そんで、帰ったら万事屋の野郎をぶん殴ってでもいいから、ちゃんとした下着を買ってもらえ」
腕に抱えた暑苦しい真っ黒な上着を投げて寄こす。神楽はうぇ~っという顔をしたが、そんなことは知ったこっちゃない。
「いいか、そのまんまの格好で歩き回ったら逮捕するからな!」
「お前はパピーかってんだトーシロー」
「一般的な、常識ってやつを教えてやってんだよ」
ああもう、本当に。ヤマトナデシコの慎みってやつを誰かこいつにたたき込んでくれ。と思いつつ、脳裏に浮かぶのは、笑顔のまま拳で語るキャバ嬢や、男みたいな侍女で、誰かこいつとその周りのヤツらに、常識とか危機感ってやつを教えてやってくれ。と、切に願わずにはいられなくなった。
アホなパンツの話。
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