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オムライスをひとつ。
普段は学生で賑わう喫茶店の窓辺に、見慣れぬ女性の姿がある。喫茶店とは言っても、大盛り定食等が人気メニューで、集まる学生もそれ目当ての男子学生が多い。女性客も勿論、少なくはないが、近隣の学校の制服を着た子が圧倒的に多いので、私服で、楚々としたその女性は珍しい客と言えるだろう。店内だけではなく、外からもガラス越しにちらちらと視線が投げかけられていた。
女性が人の目を惹いていた理由はそれだけではない。つばが広めの白い帽子の下からのぞく背中まで覆うような緑の黒髪はサラサラと真っすぐで、一筋のうねりも見えない。羽織った上品な桃色の上着。その七分袖から見える白く、きめ細かい肌。影が落ちるほどに長い睫と、整った鼻筋。まさに美少女。と呼ぶに相応しい女性だった。しかし敢えて難を挙げるならば、その表情が曇って見えるところだろう。儚げな、憂いを含んだ瞳は、どこか遠くを眺めている。
おそらく大学生なのだろう。足元の荷物入れには、それらしき荷物が置かれている。彼女は何かを頼むでもなく、外を見ている。からん。と、溶けた氷が涼やかな音を立てた。
カウベルの音がして、店の扉が開く。いらっしゃいませと、まつの明るい声が店内に響いた。
「…あ」
小さな声に、入ってきた客が振り向いた。
「アンタ…」
右目には眼帯。制服姿のままの政宗は、窓際の席に腰かけて、自分を見つめる女性を見て、一瞬目を見開いた。
「久し振り。で、いいよな。ちょっと変わったか?」
「独眼竜、は、あまり、変わらない、のね」
久々に聞いたぜ、その名前。と、くすぐったそうに苦笑いする。その表情に、女性は俯きがちだった瞳をあげた。
「籠の鳥は卒業出来たのか」
許可も取らず正面の席に座る政宗を、彼女は止めなかった。
「判ら、ない。でも、市は今、幸せなんだと思う」
そりゃあよかった。と、皮肉めいた笑みを浮かべるこの年下の青年は、彼女の…市の世界を変えてくれた一人なのだ。
「お待ちどうさま。お市さま、何か食べたくなったら遠慮なく言ってくださいね」
政宗の前に定食を置いて、まつはにこやかにそう言った。
「はぁ!?アンタ今までここで、ただ座って待ってたのか?」
市の前に置かれたグラスは、エアコンの効いた店内でも、結露に濡れてテーブルに小さな水たまりを作っている。
「長政なら、もうしばらくかかると思うぜ。何か腹に入れとかないと、またひっくり返るだろうが」
「だめ…」
「What?」
「長政さまを、呼び捨てにしちゃ、だめ」
ここにきて初めての市の強い言葉に、政宗は少し考える。
「先生だから。とか、今更言うなよ?」
あいつ、真面目な顔して自分はちゃっかり女子大生掴まえといてなぁ。アンタ、あの学校行ってんだって?お嬢様学校で有名な…そう言葉を続けようとすると、遮るように声が被さった。
「違う。長政さまを、独眼竜が、そんな風に、呼んじゃ、だめ、なの」
それは彼女にとっては精一杯だったのだろう。必死で言葉を絞り出したのか、顔を赤くして言いきると、濡れたグラスを取り、氷の溶けきった水を呷った。
「OK!ちゃんと言えるじゃねぇか」
「え…?」
「そうやって、ちょっとずつでも言いたいこと言ってやりゃあいいんだよ。アンタ、立派に口ついてんだからな」
言われて市は目をぱちくりさせる。それから、そう。とだけ吐き出すように言うと、微かに頬を緩ませた。
「ここには、アンタの声をちゃんと聞いてくれる人間もいるんだぜ。言っとかなきゃ損だ」
カウンターを伺えば、まつと利家が微笑みを返してくれる。
「それじゃあ…オムライスを。その、小さいのが、いいのだけれど…」
遠慮がちに口を開けば、それじゃあすぐにお持ちしますね。あ、水もお代わりしますか?と、まつが嬉しそうにてきぱきと支度を始めた。
「すごい。市、一人で、外でご飯なんて、絶対食べられないと、思ってた」
「変われただろう?アンタも」
「独眼竜も、変われたの?」
そう口にした時、市の脳裏に浮かんだのは、屈託なく笑う小さな少女だった。
「小さな天使の、おかげ?」
政宗はそれに答えず、微かに唇の端を上げただけだった。市は、それ以上問いただすのをやめた。それは多分、悪い意味ではないが、簡単には部外者が触れていいものではないのだ。
丁度目の前に運ばれた、小さめのオムライスを一口、スプーンですくって口にする。それで話は仕舞になった。
市や長政さまのことや、政宗達との関係とか詳しい話は頑張って後日書きます!なんかこう、久しぶりにぐわってきたのでやっちゃった(笑)
とりあえず、市は名門女子大一年生で、長政さまは政宗達の学校の先生です。これだけは明記しときます。
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