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君とデート 後編
長くなってしまいましたが、これにて完結。
長くなってしまいましたが、これにて完結。
動物園は休みなのもあってか子供連れも多く、それなりに混んではいたが、混雑しすぎ。というほどでもなく、政宗に入場券を買って貰って入場した後、それを大事にバッグに仕舞うと、いつきは園内の案内を広げた。
「お、ここ行こうぜ。猛獣ゾーン」
「おら、ゾウとか見たい」
こっちのペンギンってのはどうだ?と、ひとしきり見たいものを言い合って、それからルートを決めて歩き出す。政宗の一歩はいつきよりずっと大きく、人も多いからはぐれてしまわないようにと、いつきは足を速めた。するとすぐに気付いたのか、政宗が手を差し伸べてくれる。
「ほら、はぐれるなよ」
いつも歩く時、政宗はいつきに合わせてくれていて、それを知っていたから、いつきは無理をせずに歩けた。そして今も、ちゃんといつきのことを気にかけてくれる。
「うん」
その前に、と、政宗が肩にかけた水筒は自分が持つと言って、それを受け取ってかけると、今度こそ、差し出された左手を握った。
ぐるりと園内を巡って、丁度お腹も空いてきた頃、周りを見ればやはり弁当を広げている人達がいて、さて、どこで昼飯にしようか、と二人で見回していると、入って来たのとは別の出入口が見えた。
「外に公園があったよな」
「でも、出ちまったら入れなくならないだか?」
「大丈夫だって」
出口に行って係員に声をかけると、手の甲にスタンプを押してもらい、外に出る。見えないインクは、特殊な光を当てると見えるので、再入場の時にはそれを見せればいい。ということだった。
「どこら辺がいいか・・・」
天気がいいからか、公園にも弁当を広げる人達が結構いる。その中から、見慣れた姿が現れた。
「いつきちゃん!」
「慶次兄ちゃん?」
駆け寄って来るのはまごうことなく慶次で、その後ろに彼の叔父と叔母の姿もある。広げられたシートの上には、重箱が置かれていた。
「良かったなぁ、政宗が連れて来てくれたんだ」
「んだ。あの時はありがとな」
「ていうか何でお前等が来てるんだ?」
まつ姉ちゃんが、天気がいいから皆でお弁当にしようってんで、たまたま来てたんだって。と、慶次は豪快に笑って、ついでだから一緒に食べて行きなさいな。と、まつにもお呼ばれされたので、二人は前田家の陣取っている場所の隣にシートを広げる。
「え、何?弁当って買って来たんじゃないの?」
そんなことまでしちゃう訳?と、政宗の料理の腕を知っていながらも、慶次は驚いたように広げられた弁当をのぞきこむ。
まつの作った重箱弁当は、そりゃもう一段、一段にぎっしりと美味しそうなおかずが詰められていて、それも充分すぎるほどに魅力的なのだが、政宗の弁当はそれとはまた違って、雅びやか。という言葉で表せそうなものだった。
「おお!旨そうだな」
「なんと・・・これを殿方が作ったとは」
一緒になってのぞきこんだ利家とまつも驚いたようで、いつきはなんだか誇らしい気分になる。
飾り切りされた野菜や、きれいに飾るように詰められたおかず。魚や肉で作られたそれらが多すぎず少なすぎず、色のバランスも考えて並べられている。おにぎりはやや小さめの俵型で、いつきでも食べ易い大きさだった。
「冷たいDessert もあるからな」
割り箸を受け取り、花型の人参をつまむ。思った通り、味も逸品だ。
「美味しいべ!」
素直にほめれば、政宗の大きな手が頭を撫でてくれる。いっぱい食べろ。と言われて、もくもくと弁当を食べはじめた。こちらもどうぞ。とまつに勧められて、前田家の弁当もつまませてもらう。まつも料理上手だから、ピクニックにしてはなんとも豪勢な食事風景だ。
「お、これ旨いな。どうやったんだ?」
政宗とまつはお互いのレシピについての意見を交換し、利家と慶次はそりゃもうかなりの勢いで手を伸ばしては、まつにたしなめられ、いつきが持っていた水筒から冷たい麦茶を注いで、それを飲みながら政宗も笑っていて・・・なんだか今朝の少しばかり重たかった気分がウソのように楽しい。
「あれ?お前等、何やってんだぁ?」
突然いつきの真上に影がかかり、聞き慣れない声がする。驚いて上を見上げれば、政宗とは逆の目に眼帯をかけた大きな男がそこにいて、いつきを見下ろしていた。
「!?」
「何だ、このちいこいの」
政宗とは違う、なんだかちょっと怖いとも思える低い声。口調も荒いから、そのせいなのかもしれない。
「貴様、子供を驚かせてどうする」
その影に隠れて気付かなかったのだが、後ろにはすらりと細い、美人ともいえる男がいた。
「何だ毛利、結局付き合ってやってんじゃねぇか」
「我も運がない。こんな輩だけでなく、貴様等とまで鉢合わせとは」
からかうような政宗の口調に、盛大な溜息をついて毛利と呼ばれた男は、いつきを見下ろす男の襟首を引っ張った。そりゃもう遠慮なく、ぐえっという声を上げるほどに。
「バッカお前ェ、殺す気か!」
「何とかは死ななきゃ治らないらしいぞ」
「ああ、いつき、気にすんな」
ぎゃいぎゃいと言い合う(というよりも、大男の方が一方的に怒鳴っていて、細い方は迷惑そうに眉をひそめているのだが)彼等を指し、クラスメイトだ。と、政宗が言う。それを聞いて、ようやく緊張が解けた。
「お二人とも、よろしければ御一緒しませんか?」
「そうだな!まつの弁当は旨いぞ!」
まだまだございますから。と、利家とまつは二人分の場所を空ける。慶次も、そうだぜ、せっかくだから食って行けよ。と、立ち上がって二人の首根っこを掴んだ。
「お!ラッキー」
「いや、我は・・・」
その途端、くぅ。と可愛らしい音がする。
「食わねぇと、細っこいまんまだぞ?」
「ほら、いつきにまでバレてんじゃねぇか」
ひどく悔しそうな、恥ずかしそうな細い男は、渋々といったように、いつきの隣に腰掛けた。
「政宗の友達だべ?」
「まぁ・・・そうだな」
なんだよ、その間。と、大男は不満そうに鼻を鳴らし、しかしすぐに上機嫌でいつきに向き合う。
「オレは長曾我部元親。そっちの細いのは」
「毛利元就。だ。細いのとか言うな。貴様なんぞウドの大木だろうが」
「ふぅん」
こいつら、いっつもこんなんだから気にすんな。と、政宗は慣れた様子で、その間にもしっかり自分の分の弁当はキープする。それが何故か。なんて、すぐに判った。
食べ盛りの男子二人が加わり、弁当はそりゃもうあっという間になくなった。いつきの分はまつと政宗がちゃんと分けてくれていたから良かったが、そうでなければ、口に出来なかったものも多かっただろう。
元々たくさん食べる利家や慶次。そして見た目通りがっつりと食べる元親。しかし一番驚いたのは、細い割に元親とあまり変わらないんじゃないかと思える量をもくもくと食べていた元就だった。
「兄ちゃん、いっぱい食べるのに、そんなに細いんだな」
「こいつ、たまにびっくりするほど食うんだよな。普段はそんなでもないのに」
「勉学をするのに、腹一杯では頭が働かぬではないか」
今日は天気もよくて外だから、たくさん作って来たんですよ。というまつの弁当もきれいになくなって、皆で食後のお茶を飲んで一息つく。
「そうだ、いつき。Dessert もあるぞ」
そう言って、政宗が弁当箱と一緒に持っていた小さなクーラーボックスを取り出す。中には保冷剤と一緒に、ちょっとだけ普段見るものより大きめできれいな赤いゼリーが入っていた。
「これ、食っていいだか?」
「おう」
しかし元々二人で食べるつもりだったのだろう。ゼリーはふたつしかない。
「だども・・・」
「気にすんな。何ならふたつとも、お前が食っていいんだぜ」
政宗が笑う。他の皆も気にしてはいないようだが、やはり気がひけた。
「じゃあ、これふたつとも、おらが好きにしていいだか?」
「Ah?ああ、別に構わないが、好きにって・・・」
ひとつを手に取り、スプーンですくう。そうして・・・
「はい、慶次兄ちゃん」
差し出されたスプーン。その上でぷるん。と赤いゼリーが揺れる。慶次はすぐに理解したのか、あーん。と、大きく口を開けた。
「ん。美味しいな!」
えへへ。と笑って、いつきはもう一口分、すくう。
「はい」
差し出されたそれを見て、元親の目が見開かれた。
「オレ・・・?」
「甘いもんは嫌いか?」
大きな目で、くいっと小首を傾げて・・・政宗の隣に座る可愛らしい少女と、それから周りの者達を見て、それから差し出されたスプーンの上のゼリーを見ると、元親は口を開けた。この際、慶次と間接キスだとか、そういうことは考えないことにする。
ぱくん。と一口。確かに、ゼリーは美味しかった。
「うまい・・・」
「そりゃそうだべ!政宗の料理もお菓子も天下逸品だ」
誇らしげに笑う少女に頬が弛む。なるほど、これじゃあ政宗でなくとも、どんな約束より優先したくなるというものだ。
次に利家。彼は躊躇なくそれを口にして、嬉しそうに笑う。美味しい物を食べる時の彼の笑顔は、いつきも好きだ。
そしてまつ。美味しそうにそれを食べた後、また政宗とレシピの交換を約束していた。
それから元就。少しだけ眉をひそめて、それでも文句も言わず彼はそれを受け取った。差し出したいつきの手からスプーンを取ることもなく、おとなしく、差し出されるままに、他の者と同じように。
それに一番驚いたのは、元親と政宗だっただろう。彼が大人しく人に差し出されたものをそのまま受け取るところを見たのは初めてだったから。
それからようやくいつきは自分も一口食べて。嬉しそうに笑う。政宗の方を向けば、ひどく優しく微笑む彼がいて、ちょっとだけこそばゆくて、それを隠すかのように、もう一口、ゼリーをすくった。
「はい」
「俺はいいよ。いつだって作れるんだから」
だから、お前が全部食っていいんだぜ。と言えば、いつきは首を横にふる。
「だめだ。皆で食べなきゃ美味しくないべ」
なるほどその通りだ、と、苦笑して、政宗も大人しく口を開く。ぱくりと甘いゼリーを口に含み、冷たいそれを飲み下せば、いつきが笑う。
甘いゼリーを皆で食べて、穏やかな雰囲気の昼食が終わった。
皆と別れてもう一度動物園に戻り、夕方まで二人で歩き回った。小十郎にお土産を買い、帰りの電車に揺られながら、今日はすごく楽しかったと言ういつきを見て、政宗は笑う。そうしているうちに眠気が襲ってきて、いつきはそのまま眠ってしまった。
「何だ?よっぽどいい夢でも見てんだな」
寄りかかって眠るいつきが笑っているのを見て、政宗は小さく笑う。電車の窓から、消えていく夕日がきれいに見えた。
・・・予想外に長くなってしまいました。多分伊達いつ・・・になってるといいなぁ(希望)
きっと政宗はこの後、学校で元親とかに何か言われるに違いない。とか思いつつ。
こう、いつきが嬉しそうに食べるとこを、微笑ましく見てたらいいな〜とかいう妄想があったんです。
「お、ここ行こうぜ。猛獣ゾーン」
「おら、ゾウとか見たい」
こっちのペンギンってのはどうだ?と、ひとしきり見たいものを言い合って、それからルートを決めて歩き出す。政宗の一歩はいつきよりずっと大きく、人も多いからはぐれてしまわないようにと、いつきは足を速めた。するとすぐに気付いたのか、政宗が手を差し伸べてくれる。
「ほら、はぐれるなよ」
いつも歩く時、政宗はいつきに合わせてくれていて、それを知っていたから、いつきは無理をせずに歩けた。そして今も、ちゃんといつきのことを気にかけてくれる。
「うん」
その前に、と、政宗が肩にかけた水筒は自分が持つと言って、それを受け取ってかけると、今度こそ、差し出された左手を握った。
ぐるりと園内を巡って、丁度お腹も空いてきた頃、周りを見ればやはり弁当を広げている人達がいて、さて、どこで昼飯にしようか、と二人で見回していると、入って来たのとは別の出入口が見えた。
「外に公園があったよな」
「でも、出ちまったら入れなくならないだか?」
「大丈夫だって」
出口に行って係員に声をかけると、手の甲にスタンプを押してもらい、外に出る。見えないインクは、特殊な光を当てると見えるので、再入場の時にはそれを見せればいい。ということだった。
「どこら辺がいいか・・・」
天気がいいからか、公園にも弁当を広げる人達が結構いる。その中から、見慣れた姿が現れた。
「いつきちゃん!」
「慶次兄ちゃん?」
駆け寄って来るのはまごうことなく慶次で、その後ろに彼の叔父と叔母の姿もある。広げられたシートの上には、重箱が置かれていた。
「良かったなぁ、政宗が連れて来てくれたんだ」
「んだ。あの時はありがとな」
「ていうか何でお前等が来てるんだ?」
まつ姉ちゃんが、天気がいいから皆でお弁当にしようってんで、たまたま来てたんだって。と、慶次は豪快に笑って、ついでだから一緒に食べて行きなさいな。と、まつにもお呼ばれされたので、二人は前田家の陣取っている場所の隣にシートを広げる。
「え、何?弁当って買って来たんじゃないの?」
そんなことまでしちゃう訳?と、政宗の料理の腕を知っていながらも、慶次は驚いたように広げられた弁当をのぞきこむ。
まつの作った重箱弁当は、そりゃもう一段、一段にぎっしりと美味しそうなおかずが詰められていて、それも充分すぎるほどに魅力的なのだが、政宗の弁当はそれとはまた違って、雅びやか。という言葉で表せそうなものだった。
「おお!旨そうだな」
「なんと・・・これを殿方が作ったとは」
一緒になってのぞきこんだ利家とまつも驚いたようで、いつきはなんだか誇らしい気分になる。
飾り切りされた野菜や、きれいに飾るように詰められたおかず。魚や肉で作られたそれらが多すぎず少なすぎず、色のバランスも考えて並べられている。おにぎりはやや小さめの俵型で、いつきでも食べ易い大きさだった。
「冷たいDessert もあるからな」
割り箸を受け取り、花型の人参をつまむ。思った通り、味も逸品だ。
「美味しいべ!」
素直にほめれば、政宗の大きな手が頭を撫でてくれる。いっぱい食べろ。と言われて、もくもくと弁当を食べはじめた。こちらもどうぞ。とまつに勧められて、前田家の弁当もつまませてもらう。まつも料理上手だから、ピクニックにしてはなんとも豪勢な食事風景だ。
「お、これ旨いな。どうやったんだ?」
政宗とまつはお互いのレシピについての意見を交換し、利家と慶次はそりゃもうかなりの勢いで手を伸ばしては、まつにたしなめられ、いつきが持っていた水筒から冷たい麦茶を注いで、それを飲みながら政宗も笑っていて・・・なんだか今朝の少しばかり重たかった気分がウソのように楽しい。
「あれ?お前等、何やってんだぁ?」
突然いつきの真上に影がかかり、聞き慣れない声がする。驚いて上を見上げれば、政宗とは逆の目に眼帯をかけた大きな男がそこにいて、いつきを見下ろしていた。
「!?」
「何だ、このちいこいの」
政宗とは違う、なんだかちょっと怖いとも思える低い声。口調も荒いから、そのせいなのかもしれない。
「貴様、子供を驚かせてどうする」
その影に隠れて気付かなかったのだが、後ろにはすらりと細い、美人ともいえる男がいた。
「何だ毛利、結局付き合ってやってんじゃねぇか」
「我も運がない。こんな輩だけでなく、貴様等とまで鉢合わせとは」
からかうような政宗の口調に、盛大な溜息をついて毛利と呼ばれた男は、いつきを見下ろす男の襟首を引っ張った。そりゃもう遠慮なく、ぐえっという声を上げるほどに。
「バッカお前ェ、殺す気か!」
「何とかは死ななきゃ治らないらしいぞ」
「ああ、いつき、気にすんな」
ぎゃいぎゃいと言い合う(というよりも、大男の方が一方的に怒鳴っていて、細い方は迷惑そうに眉をひそめているのだが)彼等を指し、クラスメイトだ。と、政宗が言う。それを聞いて、ようやく緊張が解けた。
「お二人とも、よろしければ御一緒しませんか?」
「そうだな!まつの弁当は旨いぞ!」
まだまだございますから。と、利家とまつは二人分の場所を空ける。慶次も、そうだぜ、せっかくだから食って行けよ。と、立ち上がって二人の首根っこを掴んだ。
「お!ラッキー」
「いや、我は・・・」
その途端、くぅ。と可愛らしい音がする。
「食わねぇと、細っこいまんまだぞ?」
「ほら、いつきにまでバレてんじゃねぇか」
ひどく悔しそうな、恥ずかしそうな細い男は、渋々といったように、いつきの隣に腰掛けた。
「政宗の友達だべ?」
「まぁ・・・そうだな」
なんだよ、その間。と、大男は不満そうに鼻を鳴らし、しかしすぐに上機嫌でいつきに向き合う。
「オレは長曾我部元親。そっちの細いのは」
「毛利元就。だ。細いのとか言うな。貴様なんぞウドの大木だろうが」
「ふぅん」
こいつら、いっつもこんなんだから気にすんな。と、政宗は慣れた様子で、その間にもしっかり自分の分の弁当はキープする。それが何故か。なんて、すぐに判った。
食べ盛りの男子二人が加わり、弁当はそりゃもうあっという間になくなった。いつきの分はまつと政宗がちゃんと分けてくれていたから良かったが、そうでなければ、口に出来なかったものも多かっただろう。
元々たくさん食べる利家や慶次。そして見た目通りがっつりと食べる元親。しかし一番驚いたのは、細い割に元親とあまり変わらないんじゃないかと思える量をもくもくと食べていた元就だった。
「兄ちゃん、いっぱい食べるのに、そんなに細いんだな」
「こいつ、たまにびっくりするほど食うんだよな。普段はそんなでもないのに」
「勉学をするのに、腹一杯では頭が働かぬではないか」
今日は天気もよくて外だから、たくさん作って来たんですよ。というまつの弁当もきれいになくなって、皆で食後のお茶を飲んで一息つく。
「そうだ、いつき。Dessert もあるぞ」
そう言って、政宗が弁当箱と一緒に持っていた小さなクーラーボックスを取り出す。中には保冷剤と一緒に、ちょっとだけ普段見るものより大きめできれいな赤いゼリーが入っていた。
「これ、食っていいだか?」
「おう」
しかし元々二人で食べるつもりだったのだろう。ゼリーはふたつしかない。
「だども・・・」
「気にすんな。何ならふたつとも、お前が食っていいんだぜ」
政宗が笑う。他の皆も気にしてはいないようだが、やはり気がひけた。
「じゃあ、これふたつとも、おらが好きにしていいだか?」
「Ah?ああ、別に構わないが、好きにって・・・」
ひとつを手に取り、スプーンですくう。そうして・・・
「はい、慶次兄ちゃん」
差し出されたスプーン。その上でぷるん。と赤いゼリーが揺れる。慶次はすぐに理解したのか、あーん。と、大きく口を開けた。
「ん。美味しいな!」
えへへ。と笑って、いつきはもう一口分、すくう。
「はい」
差し出されたそれを見て、元親の目が見開かれた。
「オレ・・・?」
「甘いもんは嫌いか?」
大きな目で、くいっと小首を傾げて・・・政宗の隣に座る可愛らしい少女と、それから周りの者達を見て、それから差し出されたスプーンの上のゼリーを見ると、元親は口を開けた。この際、慶次と間接キスだとか、そういうことは考えないことにする。
ぱくん。と一口。確かに、ゼリーは美味しかった。
「うまい・・・」
「そりゃそうだべ!政宗の料理もお菓子も天下逸品だ」
誇らしげに笑う少女に頬が弛む。なるほど、これじゃあ政宗でなくとも、どんな約束より優先したくなるというものだ。
次に利家。彼は躊躇なくそれを口にして、嬉しそうに笑う。美味しい物を食べる時の彼の笑顔は、いつきも好きだ。
そしてまつ。美味しそうにそれを食べた後、また政宗とレシピの交換を約束していた。
それから元就。少しだけ眉をひそめて、それでも文句も言わず彼はそれを受け取った。差し出したいつきの手からスプーンを取ることもなく、おとなしく、差し出されるままに、他の者と同じように。
それに一番驚いたのは、元親と政宗だっただろう。彼が大人しく人に差し出されたものをそのまま受け取るところを見たのは初めてだったから。
それからようやくいつきは自分も一口食べて。嬉しそうに笑う。政宗の方を向けば、ひどく優しく微笑む彼がいて、ちょっとだけこそばゆくて、それを隠すかのように、もう一口、ゼリーをすくった。
「はい」
「俺はいいよ。いつだって作れるんだから」
だから、お前が全部食っていいんだぜ。と言えば、いつきは首を横にふる。
「だめだ。皆で食べなきゃ美味しくないべ」
なるほどその通りだ、と、苦笑して、政宗も大人しく口を開く。ぱくりと甘いゼリーを口に含み、冷たいそれを飲み下せば、いつきが笑う。
甘いゼリーを皆で食べて、穏やかな雰囲気の昼食が終わった。
皆と別れてもう一度動物園に戻り、夕方まで二人で歩き回った。小十郎にお土産を買い、帰りの電車に揺られながら、今日はすごく楽しかったと言ういつきを見て、政宗は笑う。そうしているうちに眠気が襲ってきて、いつきはそのまま眠ってしまった。
「何だ?よっぽどいい夢でも見てんだな」
寄りかかって眠るいつきが笑っているのを見て、政宗は小さく笑う。電車の窓から、消えていく夕日がきれいに見えた。
・・・予想外に長くなってしまいました。多分伊達いつ・・・になってるといいなぁ(希望)
きっと政宗はこの後、学校で元親とかに何か言われるに違いない。とか思いつつ。
こう、いつきが嬉しそうに食べるとこを、微笑ましく見てたらいいな〜とかいう妄想があったんです。
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